神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

この2か月で読んだ本の備忘録

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どちらさまも、お暑うございます。

左から。
チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困 新井直之(TOブックス)
ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 矢野久美子(中公新書)
自伝小説集 生きかた下手 団鬼六(文藝春秋)
パスタでたどるイタリア史 池上俊一(岩波ジュニア新書)
聴く鏡 II 菅原正二(ステレオサウンド)
国語元年 井上ひさし(中公文庫)
歌舞伎 家と血と藝 中川右介(講談社現代新書)
ふたりの笑タイム 名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏 小林信彦+萩本欽一(集英社)
京都の平熱 哲学者の都市案内 鷲田清一/鈴木理策・写真(講談社学術文庫)

明治の日本人はエライもんだと思うんだが、徴兵制のことを「血税」と呼んだんだね。従わなければ罰せられるんだから兵役も税の一種。お金じゃなくて兵士の流す血で納める税金。とりわけ貧しい家の若者を戦地へ送り込むということが、税としていかに著しい「逆進性」を孕むものか。血税という造語ひとつにムカシの人はすごい意味を込めたもんです。

それはともかくとしてだな。子どもの貧困のすべての原因はオトナなわけだ。それは仕方のない原因の場合もあれば、できるくせにやらないで子どもを貧困のなかへ叩き落とす場合もあるんだが、どちらもシワ寄せが子どもに来ることには間違いない。しかし子どもというのはオトナから「保護されている」という体裁のもとでヨノナカから「隔離」された状態にいるわけで、だからヨノナカの側からは貧困に苦しんでいる子どもの姿というのをなかなか確認することができない。いっぽう子どもの側もヨノナカから隔離されているがゆえに、もしかしたら貧困から脱する機会があるのかもしれない場合でも、それに気づくことができないでいることが多い。

それを番組取材のなかで著者は実際に貧困の真っ只中にいる若者たちに向き合って、そこからこの国の現状をあぶり出しながら、そこへ手をさしのべる人々の努力と限界についても伝えていく。そういう本がチャイルド・プアで、ひょっとしたことから著者と知り合ったんだが実に真剣かつおだやかに考え語る若者である。だから買って読むべし(強引承知)。

「悪の凡庸さ」というのは日本語でいえば「コトナカレ」とよく似ている。コトナカレというのはようするに所属する組織のなかで自分を守ろうとする態度で、コトナカレというのがたくさん集まると「組織防衛」というようなものになり往々にして組織を防衛するためには、社会や国家や他の個人を犠牲にすることにまったく躊躇しない。

アイヒマンだって「そんなつもりじゃなかった」ろうし、日本のどっか地方の役所で憲法擁護の集会に公民館使うのをことわった役人だって「そんなつもりじゃなかった」ろうが、じつはまったく同じことである。

とんちんかんなのは承知してますけど、ハンナ・アーレント読んでそんなことを考えてた。
ちなみにアーレントの著作自体はおれにはまるで歯が立ちません。

鬼六さんは近所の古本屋の本の山に刺さってたのをそおーっと引っこ抜いて買ってきたんだが、ほとんど以前読んだ大崎善生の「赦す人」に出てくるエピソードとダブっているので、どっちか買えばそれでオッケーかもしれない。だけどね、まあズルズルの人生というのか凄まじいというのか、すごいです。しかし団鬼六といえばおれは「真剣師 小池重明」だな。

聴く鏡。さいきんは掲載誌のステレオサウンドをめったに買わないから、単行本になって初めて読んだのがけっこうあった。まあ内容もさりながら、あの独特の文章に昔スイングジャーナル誌の小さいコラムなんかで接してたころから惹かれるものがあってね。だからずいぶん長年のファンなんです、文章のほうの。ベイシーにも一度だけ行きました。

国語元年はもちろんエヌエッチケーのテレビドラマでした。めちゃくちゃ面白かった。覚えてますか? ちあきなおみの薩摩出身の奥方なんてもう最高だった。もう一度見たいもんだなあと長年思ってたけど再放送のあるでもなく、なんとはなしにせんだって有楽町の三省堂の文庫の棚を眺めてたらこの文庫を発見、小躍りして買って読んだのでした。しかしこれって、オリジナルがテレビドラマの脚本だったのね。だからこの文庫の中身はドラマの脚本そのものです。読んだらガゼンまたドラマを見たくなった。DVD買うか買わないか現在思案中。

「歌舞伎…」には「日本の進路フェア」つうオビが巻いてあるんだけど、本書はおれが一読したところ日本の進路とはなーんの関係もありません。関係あったら面白いけどね。中身は歌舞伎役者とその家系についてのウラを取ってあるゴシップみたいな感じ。夕刊フジに連載するとしたらタイトルのアタマに「梨園血風録」なんてのを付けてやりたい。当人が生きてようがインタビューなんかぜす、ただひたすら資料に当たりまくり漁りまくって書きまくるという著者の得意技で書き下ろされた一冊なり。

この素晴らしい実力の俳優が主役を張るぜひ芝居を見たいよなと思っても、それは絶対ありえないということがよくわかる本でもある。

テレビと笑いと東京下町。なるほどそういう共通項があってのこのふたりの本なのだな。

京都の平熱は読書会京都遠征のさいのお題本で再読した。
さいしょはここに、ほら
Commented by 野本 at 2014-08-04 00:06 x
ハンナアーレントの映画見ましたね?!

リトルアイヒマンみたいな公務員はそれこそ山のようにいて、法律に忠実になってればまったく思考ゼロなのは大勢います。アイヒマンレベルの事務処理能力と無思考が備わるとかなりヤバイと思います。でも公務員になる時は法律じゃなくて憲法をきちんと守ることを約束させられるんですよ。そこんところは忘れちゃいかんと思ってます。忘れちゃってる公務員多いですよね。
Commented by god-zi-lla at 2014-08-04 17:17
野本さん こんにちは。

映画のハンナ・アーレントを今年のはじめに見て、それでアーレントの人と考え方が気になってたんですが、本人の著作は不勉強な自分にはとても歯が立たないので、ちょうど新書で出た評伝を読んでみました。

> でも公務員になる時は法律じゃなくて憲法をきちんと守ることを約束させられるんですよ

なるほど、そうかなと思ってたんですよね。
だけど民間企業だってそうですけど、倫理上正しいかどうかより組織上のエライ人の指示・命令のほうが大事だったり、エライ人が指示しそうなことを指示されてなくても先回りしてどんどん実行してっちゃったりってのは普通ですし、そうすることが自分の組織のなかでの立場を守る唯一の手段だと無意識のうちに信じてる人間が大半じゃないですかね。

(つづく)
Commented by god-zi-lla at 2014-08-04 17:17
(続き)

で、そういうことが官僚組織のなかで起こって当たり前のことになっているということ自体がファシズムの重要な構成要件のひとつである、みたいなことをアーレントは言ってるんじゃないかと勝手に思ってます。だとすれば日本はもう、すぐにでもファシズムに転ぶ準備が出来てるんだろうと思うのが自然ですね。

それに加えて近ごろの地方議会の劣化ってのは、まあ国会も同じなんですけど、あれがファシズムを生むんだろうなっていう感じは、すごくあります。ファシズムの政権が議会を機能停止するまえに、議会が自分から進んで機能不全に陥ってくれるんだから、これはもうそれを狙ってる政治権力にとっては思うツボってもんです。
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by god-zi-lla | 2014-08-01 11:16 | 本はココロのゴハンかも | Comments(3)