神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

ナマDriekusman Total Lossはハン・ベニンクの踵落とし付き

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アタマに鉢巻き、首筋にタオル、ズボンの裾をヒザまでたくし上げ、アルトサックスの横に座りこんでドラムセットの代わりにスティックでステージをガチャガチャガチャガチャ叩きまくる素っ頓狂なジジイが、あのドルフィーの〈LAST DATE〉の若きオランダのドラマー、ハン・ベニンク75歳なのであった。

こんなことする人だったのかよ。

だけどさ。ホントにびっくりするのは床を叩こうがドラムスを叩こうが、バンドをスイングさせてることにはまるで変わりないっていう、そこんとこだ。たんに客を喜ばせるだけの(もちろんそれは多分にあるでしょうけど)派手なパフォーマンスなんてものじゃない。とにかくドラムセットのところからステージ前方に出てくるときも音楽が淀んだりすることがないから、長年にわたって当たり前のようにやってきたこれがこの人の「ドラミング」ってもんなんだろうな。

渋谷のスペイン坂の上のところ、ちょっと前までシネマライズというミニシアターだった建物が〈WWW〉って名前のライヴハウスになっていて、そこで9月3日の午後上の写真のようなハン・ベニンクを目撃したのであった。

その10日ほど前、新しい〈ステレオ〉誌を買ってきて後ろのほうにあるレコードCD評をパラパラ眺めてたところ〈QUARTET-NL〉つうバンドのCDに目が止まった。ハン・ベニンクを中心としたオランダのバンドの初アルバムだっていうじゃんか。しかも今年3月に亡くなったミシャ・メンゲルベルクの曲ばかりを演奏したトリビュートアルバムでもあるんだって(2016年の録音だからその時点でメンゲルベルクは存命)。

え? 亡くなったの?

じつはミシャ・メンゲルベルクが亡くなってたということにまるで気づいてなかった。もう亡くなって半年もたってるのか。念のためウィキペディアを見ればたしかに今年3月3日に亡くなったとある。35年6月生まれだから享年81歳。んー、たしかこのウィキペディアの項目を最近何回か読んでるんだが、それは今年3月以前のことだったのか。遅ればせながら、合掌。

読んでくだすった方があるやもしれませんが、このブログでね、何度か彼の曲〈Driekusman Total Loss〉について触れたんだよ。ユーモラスな親しみやすさと、ちょいゴツゴツっとしたアブストラクトな感じがいい具合に溶け合った、これはジャズメンの作ったオリジナルのなかでもプレイされ続けるにふさわしい名曲だと思うんだけど、ミシャ・メンゲルベルクはこの曲を60年代の半ばからハン・ベニンクの加わったバンドのアルバムで何度も何度も録音している。

いやーこりゃ買わないわけにいかない。長年の盟友ハン・ベニンクが最年長でリーダー格のバンドが作ったミシャ・メンゲルベルクの、図らずも追悼盤のようになってしまった'SONG BOOK'だもん。そりゃあきっと〈Driekusman Total Loss〉をプレイしてるに違いない。買おう買おう急いで買おうアマゾンじゃなくってタワレコで(べつに意味はないです)。
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アルバムタイトルはバンドの名前のまま〈QUARTET-NL〉。なんにも断り書きはないけど'NL'は'Nederland'のことなんだろうと想像がつく。おれはオランダのジャズにまったく疎くてメンゲルベルク、ベニンクそれからこれも先年亡くなったピート・ノールデイクくらいしか知らない。だからよくわかんないんだけど、このCDのプレイヤーはハン・ベニンク以外のメンバーもオランダじゃ知らない人のいないようなプレイヤーばっかりだっていうんだな。国の名前をバンドの名前にくっつけて何ら不自然じゃないくらいの、きっと連中だってことなのでしょう。

そして届いたCDを見れば案の定〈Driekusman Total Loss〉はアルバム幕開けの1曲だ。

で、さっそく聴いてみるとこれがすごくいいんだ。日本盤だけのボーナストラック2曲を除いた7トラックすべてがミシャ・メンゲルベルクの書いたナンバーでさ(いつもながらにアルバムコンセプトになんの配慮もない邦盤のボーナストラックなり)。くだんの〈Driekusman…〉にかぎらずメンゲルベルクの曲はひとクセもふたクセもありながら親しみやすく、モンクやドルフィーの曲でも感じる、なんというか脳の特定の場所をカンコンキンと刺激してくるような感覚に溢れてる。

ベニンクの加わるバンドがメンゲルベルクの曲ばかりをプレイしてるといっても演奏そのものは全体として明るく、ファンキーなところもチラチラ見え隠れする(ことにベンヤミン・ヘルマンのアルトがそう思わせる)あんまりヨーロッパ、ヨーロッパしてないハードバップという感じで、アヴァンギャルドなところはカケラもない(ちょっとくらいあってもいいかなと思わないこともないですけど)。

ハッキリ言ってここ数年で聴いたメインストリーム系のジャズの新録音のかなで、おれとしたらいちばん楽しく聴けたアルバムなんだよ。 

でさ。2回くらい聴いたあとでCDのオビに細かい字で印刷された惹句をぼんやりと読むでもなく眺めてたんだ。そしたら一番おしまいのところにこうあるじゃんか。
●2017年夏来日ツアー予定。
は? 2017年夏来日ってホントかよ。だけどもう8月も終わりで今はもう秋だれもいない海。

で慌てて調べてみたらほんの数日後の9月3日渋谷でライヴがあるっていうじゃんか。チケットぴあで検索するとオールスタンディングでまだ入れる。やー、これは行かなくっちゃ。ハン・ベニンクだってもう若くない。ここで聞き逃したら「次」はないかもしれない。急げ渋谷へ。スペイン坂を駆け上がれ(なんちて)。

つうわけでハナシは冒頭に戻るのである。

なにしろこのCD自体がライヴアルバムだから、同じようにミシャ・メンゲルベルクをトリビュートするセットを同じようなノリでやるんだろうとある程度予想はしてたんだよ。

だけど2曲目に〈Driekusman Total Loss〉を実際目の前で聴けたときには、なぜか一瞬うるうるとしてしまったんであった。そういえばなんだかどうという理由もなくこの曲を追っかけてたここ数年だったよなあ。とうとうそれを(ミシャ・メンゲルベルクがいないのは本当に残念だけど)「当事者」のひとりハン・ベニンクのバンドの演奏で聴けたなんて、おれはなんてシアワセものなんだろか。長生きしてよかった(まだ61歳ですけど)。

というわけで、今日もあの日ハン・ベニンクがフロアタムに見舞ったカカト落としを思い出しながらCDに聴き入る秋の昼下がりなのであった。

(55RECORDS / FNCJ5565)

Commented by ハルズ at 2017-09-19 12:56 x
聴かれたんですね。良かったですね。
彼のCDボックス買われました?
人生のすべての作品をCDにし、それを手書きの箱に詰めたもの。
Commented by god-zi-lla at 2017-09-20 10:08
ハルズさん こんにちは。

とても良いライヴでした。ハン・ベニンクが世代や流儀を超えて尊敬されている理由がよくわかりました。直前で来日に気づいてラッキーでした。

> 人生のすべての作品をCDにし、それを手書きの箱に詰めたもの。

いやあ知りませんでした。けっこうな枚数なんでしょうね。

そういえばベニンクは画家でもあるんですね。新しいCDのカヴァーアートもベニンクの絵だそうです。
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by god-zi-lla | 2017-09-05 12:39 | 物見遊山十把一絡げ | Comments(2)