やつらを高く吊せ、じゃなくてね
2017年 11月 10日
高く吊るされちゃってんのは大相撲の吊り屋根なんでした。
あーなるほどライヴとかに使うときはこうするんだな。
だけどなんか可哀想な姿ではある。
その大屋根の下に大仰なフライングPAシステムと4面のスクリーンが吊るされた国技館でなにを聴いてきたのかといえばウェイン・ショーターとハービー・ハンコック、2大後期高齢ジャズミュージシャンのスペシャルバンドである。メンバーはほかにベースのエスペランサ・スポールディングとドラムスのテリ・リン・キャリントンつう世代違いの女性ふたり。
正直言ってハービー・ハンコックはおれとしたらどうだっていいんだが、とにかく前回ウェイン・ショーターをオーチャードホールで聴いて完全にヤラれちまったからね。84歳という年齢も年齢だし、とにかくショーターが来日するんだったらもう聴いとかなきゃいけない。
だがね。ハービー・ハンコックと組むということは、ショーターの控えめな性格からしてサウンド的にはハンコックペースになるんだろうと予想してはいたんだよ。そして実際始まってみれば予想どおりの展開なのであった。どう言ったらいいのかポップな流線型のフュージョン風味のポスト・バップてゆうか、高尚な雰囲気をちらちらさせながらそれを調味料として使いつつ、一般受けする軽さをキープしたようなスタイルのね。
そういうフォーマットのなかで、ショーターは自分のバンドのときのような尖ったプレイは控えながらもすごく味わい深いソロを取るんだよ。
ちょうどあれだな。ノラ・ジョーンズの〈Day Breaks〉で聴かせるショーターのプレイを想像すると近い雰囲気かな。もちろん「伴奏」じゃないからスペースはたっぷりあるし、もっと自由な感じではあるけど。
そういうわけで全体としたらハンコック的音楽の枠組みなんだが(ヴォコーダーとか使っちゃうしさ)、そういう音楽づくりに寄り添いつつもたんなるパーツには絶対ならないショーターがすこくかっこいい。
ところで主催者のHPによれば当夜のセットリストはこのようであった。
Little One
Some Place Called “Where”
Devil May Care
Memory Of Enchantment
TOYS
Encounters e Despedidas
WAR GAMES
*アンコール
SAMPLE TUNE
Some Place Called “Where”
Devil May Care
Memory Of Enchantment
TOYS
Encounters e Despedidas
WAR GAMES
*アンコール
SAMPLE TUNE
休憩なしのおよそ2時間、後半のほうでエスペランサ・スポールディングがウッドベースを弾きながら歌い始めた曲があったんだが、あれえ、この曲どっかで聴いたことあるじゃんか。たしかマリア・ヒタも歌ってアルバムに入れてたんじゃなかったかしらん。だとするとこれはブラジルの曲で、歌われてる言葉はポルトガル語か。
いやーこれがまた良かった。エスペランサ・スポールディングのアルバムは〈Radio Music Society〉というのを1枚(ハイレゾのデータだけどね)持ってるきりだけど、その感じとはずいぶん違う哀愁ただよう語り口で聴かせるんだ。
絶対これってマリア・ヒタが歌ってた曲だよなあと思って、ウチに帰って上のセットリストを見るとポルトガル語と思しき曲名はひとつっきり、CDの棚を調べてみたらマリア・ヒタがデビューアルバムで歌ってた曲で〈Encounters e Despedidas〉というのだった。んー、やっぱりそうだったか。
そしてこのじんわりと心の底に染み込んでくるような歌を誰が作ったのかと見れば、これはミルトン・ナシメントの曲なんだってね。この10年いったい何百回マリア・ヒタのアルバム聴いたのかわかんないくらい聴いてるのに、ぜーんぜん気づいてませんでした。
しかしあれだよなあ。ミルトン・ナシメントといえば70年代ショーターの名盤〈Native Dancer〉にゲストというよりコアメンバーとして参加し、ぎゃくにナシメントのステージにショーターが加わったライヴアルバムもあったりするわけだから縁は非常に深い。
このへんは面白いなあ。この曲がもともとエスペランサ・スポールディングのレパートリーにあったのか、ブラジル好きのショーターがこれをやろうと言ったのか。まあどっちにしても、おれ個人にとっちゃこの曲がこの夜のハイライトだった気がするね。ハンコック色が薄いということも含めて。
とにかくノンストップの2時間、曲の紹介すらしないインターバルさえあまりない、聞こえるのは音楽のみという非常に高濃度なコンサートなんでした。エスペランサ・スポールディングのプレイを聴いて今度この人が自分のバンドで来ることがあったら行かなくっちゃと思わされたし、テリ・リン・キャリントンのドラムスはバンド全体をプッシュするというよりは控えめに後ろから支え続けるいい感じの演奏だし(もうちょっとPAの音量を上げて欲しかったけど)、それになによりやっぱり84歳のウェイン・ショーターがかっこいい。
もう1回聴けるといいんだがなあ。
by god-zi-lla
| 2017-11-10 13:39
| 物見遊山十把一絡げ
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