オペラ・シティのバドゥラ=スコダ
2007年 11月 01日
まだ60代でしょうが二人とも。B=スコダ先生からみれば「若造」よ。
B=スコダの演奏は中学だか高校だかの時分にウエストミンスター盤(ステレオのほう)のシューベルト「鱒」を買って愛聴しはじめて以来親しんできたわけですけども、実演に接するのは初めてなんだな。しかもそれが「80歳記念」と銘打たれたツアーとくりゃ「これが最後でっせ」とにおわせて集客しようっつー呼び屋の奸計とは重々知りつつも、やっぱ行くよ。
プログラムはバルトークの「組曲 作品14」で始まり、続いてバッハの「イタリア協奏曲」、そしてベートーヴェン「ピアノソナタ第31番」。休憩をはさんでシューベルトの「ピアノソナタ第20番」という組み立て。
バルトークはちょっとウオーミングアップっぽい感じで、ちょっとピアノが鳴らないふうだったけど、しょっぱなバルトークっつうとこが持ち味なんだろうな。バルトークを弾いた盤は持ってませんが50年代にヒンデミットを弾いたレコードがあったり、昔から「同時代」の音楽に積極的に取り組んできた人だってことがよくわかりますな。もっともバルトークもヒンデミットもとっくに古典ではあるけどさ。
「イタリア協奏曲」を現代ピアノで聴くというのも、もしかしていまや貴重な経験なのかもね。正直いって違和感がないわけじゃなかったけど、この世代のピアニストにとっちゃモダンピアノでバッハを弾くことは普通のことなんだよなと思いながら楽しんで聴いたね。
しかし、この夜あんまり予備知識なしにB=スコダの演奏を聴いたお客のなかには、たぶん「なんじゃこりゃ」と思った人も多かったんじゃないかと思うんだな。
おれのシロート聴きですけど、たぶんいまどきのピアニストと比べると1音1音の音の粒が立ってないというか聴きようによっちゃモゴモゴしてダンゴ状態のようだし、全体の音量が小さいうえにダイナミクスの幅が狭くて、強烈な打鍵がないいっぽう消え入るような弱音もない。音色が均質でなくて、ときおりもつれるように聞こえることもある。よーするにメカニックな完璧さが微塵も感じられない演奏なのよ。だからかどうか聴いてて圧倒されるようなとこがぜんぜんないのね。
SO WHAT !?
マイルスじゃないけどさ。それがどうしたってんだ、だぜ。
ベートーヴェンは予想通りというか、あれよあれよという間にさらさらっと流れていった感じでしたが、シューベルトは深いなあ。くぐもって沈んで揺れて浮かんで途切れて消えて現れて立ち止まって泣いて笑って。なんともいえないこれがB=スコダのシューベルトの世界なんだろうなあ。
会場は満員というわけではなかったけども、よい聴き手が集まってたと思う。
とにかく音が飛んできて圧倒するような人じゃないから必然的に耳をそばだてるようになって、曲の最後の1音が完全に消えるまで、ピアニストが完全に指を鍵盤から離しペダルから足を下ろすまで、だれも拍手しないんだよ。これはすごく気持ちよかった。
アンコールはシューベルトのたぶん「4つの即興曲D899」の第3曲だったと思います。ウチに帰って本人のCD聴いて確認したから間違いないと思うんだけど、これがまたよかったねー。最高。
御大、背筋も伸びて足取りも確かだったから、この調子なら85歳記念世界ツアーもやれるとおれは見ましたけどね。そしたらおれはまた聴きに行きまっせ。
by god-zi-lla
| 2007-11-01 13:07
| 物見遊山十把一絡げ
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