神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」

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広島の平和記念公園の資料館を見終わって公園の中央を望むと、慰霊碑のさらに背後に原爆ドームが見える。なんというかおれにはちょっと忘れようのない「あーここに原爆が投下されたんだ」という非常に強烈な印象を残す風景だと思えたな。

長崎には2回行ったことがあって2回とも浦上天主堂を見上げた。だだどうもそこがグラウンドゼロ(=爆心地)だったという感覚とはなんか遠い。

なぜ広島の原爆ドームは保存されて浦上天主堂の遺構は取り壊され撤去されてしまったのか。その理由に迫ろうとするノンフィクションがこの本なわけで、これが非常に興味深い。長崎の人々には既知のことも多いのかもしれないけど、おれには知らないことだらけだ。被爆都市としての長崎ということだけでなく、天主堂保存の意向を示してた市長が合衆国視察旅行後突然撤去へ方針転換する謎、隠れキリシタンの「聖地」としての浦上、天主堂再建とカトリック、長崎と浦上の関係、とにかくここに描かれた長崎のいろいろについて。

で、そのいずれもが本のテーマに色濃い影を落としてる。

そのいろんな断面というか側面というか、そのなかのあるどれあひとつの視点からでも恣意的に「これが真相だ」と結論づけて刺激的な本が書けそうなくらい、重たいものが折り重なってるように見える。

そう見えるんだけど、あえて最終的に「謎の真相」をこれと決めつけないのは著者が報道記者出身の作家だからかなという感じと、著者自身がその長崎出身だからというのがじつは大きいんじゃないかなとも思う。

ジャーナリストとして見ているものと、長崎の爆心地付近で被爆した母の子として見ているもの。そういう自分のなかの複数の視線が、もうひとつ言えば著者の穏やかな人柄も含めて、急いで派手な結論に達しようとしない本に仕上げさせたのかとも思う。

じつはこの著者はおれの敬愛する学生時代の先輩で、本人から「今度こんな本を出すから読んでね」というハガキをもらったもんだから、7月1日の発売日に紀伊國屋書店新宿本店で買い求めてきて、先に読んでた本を読み終わるのを待って読み始めたら本を置くこと能わず。

先輩後輩関係なしに第一級の優れたノンフィクションで必読の1冊だと思う。

でも、それはそれとして敬愛する先輩の著書だからっつう理由で宣伝もしてみたいもんな。

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ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」
高瀬毅・著 平凡社刊 本体1600円
*AERAという週刊誌の「現代の肖像」という続きものの人物ルポの常連筆者で、忌野清志郎を書いたのがこの著者です。

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いやあ平岡正明さんが亡くなってしまった。
上記の本を読了していま読んでるのがまさにこの人の本なのよ。
たんなる偶然とはいえ、しかし。
合掌
Commented by yully at 2009-07-27 00:29 x
この本の名前を検索にかけて辿り着きました。
エントリーを読んで、あれ? と思い、ネームカードを拝見。
godzillaさんのお顔は存じ上げないのですが、お名前は存じ上げておりまして(某研究室の後輩にあたります)、勝手にご縁を感じてブックマークをさせていただきました。

この本、まだ買い求めてないのですが、こちらのエントリーを読んで、高瀬さんのお人柄を思い出してなるほど、と思い、なおさら読みたくなりました。近く探してみようと思います。

あ、それと最近JAZZを聞きに行く機会を作るようになったので、こちらの過去の日記をいい教科書にさせていただきます。

またお邪魔します!
Commented by god-zi-lla at 2009-07-27 16:37
yullyさん、はじめまして。
高瀬さんの著書についてはOB会のMLのほうでも徐々に盛り上がってきてますね。
記念の呑み会もある模様ですし。

そのうちお目にかかる機会もあるかもしれません。そのときはよろしくお願いします。

JAZZについては非常に好き嫌いが激しいので、あまり参考にならないかもしれません。つか、参考にしないほうがいいかも。
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by god-zi-lla | 2009-07-10 15:49 | 本はココロのゴハンかも | Comments(2)