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つうわけで村上春樹著「古くて素敵なクラシック・レコードたち」をなんとなくパラパラする日々だけど、当然ムラカミ先生んちの棚と同じもんがウチにも何枚かあるかなーなんてことも少しは考える。

そしてアタマから順に見ていくと五つめのテーマ、ページでいうと30頁に出てきた。フリードリヒ・グルダのショパン〈四つのバラード〉、10インチ盤。ムラカミ先生はそのショパンのバラードのうちの〈第3番〉をとくに取り上げ、ほかの4枚のレコードといっしょに紹介してる。

だけど、このグルダのショパンがすごく良いとか大好きとか全然書いてなくて、「ルービンシュタインに比べると『ショパン味』が薄め」とか「どことなく『借り物』っぽい」とか、じゃあなんで先生はこのグルダ盤を選んだのであろうか。ジャケットがキレイ? とてもそうは思えない。なんか、やっつけ仕事っぽいデザインだし。

この本を眺めてるとこんなふうに演奏をホメるでもなくジャケットのデザインに触れるでもなく、なぜこの盤が選ばれてるのか不思議に思えるのが結構あったりする。だけどね。たぶんそこがこの本の楽しいとこなんだよ。あー、そういやこんなのむかし買ってたよなーってレコードが、なんかの拍子に棚からポロっと現れてみょうに懐かしかったりして。レコード好きのお宅ならそういう盤の何枚かはあるんじゃあるまいか。そういうとこがなんか「琴線に触れる」つうか、そんな気がするんだけどね(しない? そうかなあ)。

でも、おれとしてはけっこう気に入ってて、20年くらい前に手に入れて以来ときどき引っぱり出しちゃ聴いてるので(10インチ盤両面にバラード4曲だけっていうのも分量的にイイ感じだし)、先生にはもうちょっと「持ち上げ」て欲しかったなあなんて思わないでもないです。

ところで今まで目を通してきたなかで、グルダのレコードはとりあえずこのショパンしか登場してないみたいだ。「本領」のモーツァルトやベートーヴェンの作品には少なくとも出てこない(索引があったらよかったのに)。ムラカミ先生フリードリヒ・グルダというピアニストはあんまりお好みでないのかもしれない。ま、べつにそれはいいんですけど。

愛聴といやあ、この本の後半のほうのベートーヴェンのピアノソナタ作品111(32番)のところに、こっちは40年以上愛聴してるポリーニの盤(掲載されてるのは後期ソナタの国内盤ボックスセットだけど、おれのはバラ売りの国内盤の1枚)が挙がってて、これについてはこう書かれてる。

完璧と言ってもいいほど充実した、味わい深い演奏だ。心と知性と技巧がぴったり三位一体となっている。慈愛に満ちた……という域にまでは達していないかもしれないが、心はしっかりこもっている。ドイツ・グラモフォンの録音も素晴らしい。

って、この演奏を嫌うひともわりかしいるなかで、ほぼ「絶賛」といっていいんだけども、ちょっとヨソ行きな表現というか、これはこれで先生なんかもうひとこと茶々でも入れてくれたらよかったのになあなんて、ふと思ったりしてね。

ホント、読者ってのは勝手だと思います、自分でも。はい。







読者は勝手なことを言うもんです(Chopin ; The Four Ballades / Friedrich Gulda)_d0027243_13272097.jpg

お約束につきラベル。本に出てたのは米LONDON盤です。






( DECCA LW 5156 ) 10inch MONO














# by god-zi-lla | 2021-07-26 15:54 | 常用レコード絵日記 | Comments(0)




編隊飛行の精度の高さに思わず声を出してしまったぜ。

肝心の「展示飛行」自体は我が家から北北西方向のビルの向こうに輪っかが3つ描かれていくところが、ほんの少し見えただけだった。

その数分後、北北東の空の向こうからベランダで見てたこっちに向かって6機の編隊のまま飛来する間にスモークを停止。ほぼ我が家の頭上を一糸乱れず雁行して去っていった。

連日、この国のカッチョ悪さを見せつけられてウンザリしてたこっちとしては、ほんの一瞬だけクダらない現実を忘れさせてくれたブルーインパルスの飛行なんでした。

ちなみにブルーインパルスの飛行を実際に見たのは高校生のころ、入間基地の「航空ショー」に行って以来のことだった。まだF86Fセイバーじゃなかったかな。あのときはブルーインパルスじゃなくて、旧日本陸軍の四式戦闘機「疾風」がレストアされて実際に飛ぶところを見るのが目的だったなあ。

すまんね。たんなるヒコーキ好きだもんで。


(この編隊のまま入間基地まで飛行したんだろうか)





# by god-zi-lla | 2021-07-23 13:59 | 日日是好日? | Comments(0)
これが楽しい本なのは、ディスクガイドじゃないからです_d0027243_14180681.jpg



なんか楽しそうな本を出したなムラカミ先生、と思ったので映画のついでに紀伊國屋書店新宿本店へ行き、パラパラ中身を見てから買おうと思ったところが、コミックみたく1冊1冊全部シュリンクラップがかかってる。しかもパラパラするための「見本」も見当たらないでやんの。なんだよー。

でもね。思ったより小さくて可愛らしいサイズだったし(写真の如くシングル盤よりひとまわり小型の判型)、オビの惹句を見ると「うちの棚から、好きなレコード、面白いレコードを486枚ほど選んでみました」って、486と細かく刻んだあとに「ほど」なんてつけたりして、これが生真面目一方なガイド本じゃないことは明明白白。村上春樹の小説についちゃおれ的にはここんとこ好き嫌いが大きいけど、こと音楽についての本に限ってはどれ読んでも全部面白いと思うから迷わずレジに持ってった。

映画が終わって帰ってすぐにシュリンクラップを破って見るとラップの内側は透明の塩ビ製ハードケースで、本はそこに収まっている。あんまり「本」ぽくないパッケージだ。判型が正方形なだけでそう凝った装丁ってわけでもないけど、「スピン」も付いてないしページを開きやすくもない(どっちかっつうと開きにくい)。こいつは先頭のページからじっくり読み進んでくんじゃなくて、行き当たりばったり開いたところをときどき眺めてねって、そうアピールしてる造本なんじゃあるまいか。

中身を見ると案の定、名曲の名盤を集めたわけじゃないし(評価の定まった『名曲の名盤』も混ざってるけど、多分たまたま)、楽曲の有名無名も演奏家の有名無名もあまり関係ないし、内容のバランスを考えた形跡もない。こういうククリでこういう盤を載っけて文章を付けたら面白いんじゃないかっつう、それってなんか誰かのブログみたいじゃんと一瞬思わないでもなかったけどさ。

けどムラカミ先生がそれをやりゃあきっと面白いだろうなあと、それはもう本を開いた瞬間にわかった。



これが楽しい本なのは、ディスクガイドじゃないからです_d0027243_14182689.jpg



こうやって1頁に何枚かのジャケットが「テーマ」に沿って棚から選ばれてカラーで紹介されてる。そのあとにひとテーマ2頁の「本文」がある。本文で語られるのはその楽曲の、その演奏のどこが好きで、どこが苦手とか、そのレコードをいつどういう状況で買ったとか、そういうことがランダムに語られていてとくに首尾一貫してるわけでもない。とにかくワンテーマが3頁。ただし紹介されてる盤は項目によって4枚だったり5枚だったり2枚だけだったり。

上の見開きはバルトーク〈管弦楽のための協奏曲〉の「ハンガリー指揮者編」。ジャケットは上左がセル/クリーヴランド管(1965年・CBSソニー)、その右がショルティ/ロンドン響(1965年・DECCA)、下左はライナー/シカゴ響(1955年・Victor)、その右はフリッチャイ/ベルリン放送響(1957年・DGG)。

それで「本文」のほうを見るとハンガリー人バルトークの作品をハンガリー出身の指揮者が振るこの項を「ホーム」編、このあとには当然ハンガリー以外の指揮者の項があってそっちは「アウェイ」編。いやなんかもう、こうやって遊んでるムラカミ先生に付き合ってるのが面白いです。

つか、その「遊んでるムラカミ先生」を面白いと思えないひとには面白くもなんともない本かもなって気はする。なにしろ先生がティーネイジャーのころからせっせと買い集めたクラシックのレコードだから国内盤もあれば再発廉価盤もあれば中古屋で50円とか百円とかで買った盤もざくざく出てきて、おれなんかはそこが無類に面白かったりする。しかも「お気に入り」もあればそうでない盤もある。

当然古い盤がほとんどで同じものを買おうとしたら中古を探す以外手に入れる方法はないけど、その同じ盤がいまCDで手に入るかとかサブスクで聴けるかとか、そんなことはハナっからまったくモンダイにもしてない。これをじつにツーカイと言わずしてなんと言おうか(いちおう『現物』のレコード番号だけは載ってるけど)。

しかもテーマがね。全部で100項目のテーマに分かれてるんだけど、99番目のテーマは「マルケヴィッチの穴」だぜ。なんかもうマジメなクラシックレコードマニアのなかには怒り出すひとがいたりするんじゃあるまいかしらん。でもムラカミ先生はマルケヴィッチの振ったレコードが大好きで、棚にはたぶん何十枚も刺さってて、古いひとだし(1912年生まれ1983年没)、いまも盛んに聴かれ続けてるとはいえないひとだし、でも自分は大好きだからここに1項立ててみんなに知ってもらいたい、ってことなんだろうな。

だけどタイトルが「マルケヴィッチの穴」だもんなー。映画「マルコヴィッチの穴」が多分好きなんでしょうけど、マルケヴィッチのレコードと映画の間になんか関係を見出してるのかどうか、本文を読んでみてもおれには全然わかんなかった。たんなるダジャレのような気もするし。

まだ全部読み切ってない気がするけど(アタマから順番に読んでないので)、続刊希望します。




古くて素敵なクラシック・レコードたち 村上春樹(文藝春秋) *書き下ろし









# by god-zi-lla | 2021-07-18 16:16 | 本はココロのゴハンかも | Comments(2)