野菜の、パパイヤ
2013年 10月 04日
ネットで調べてみると皮をむいて二つに割って種をスプーンで取ったのを「しりしり」してから炒める、なんてことがあっちこっちに書いてあるんだけど、しりしりっていうのは膾みたいに細く刻んじゃうことを沖縄じゃそういうんですってね。なるほど、しりしり、か。しりしりー。しりしり、しりしりー、って何度も言ってみるとなるほどああいうふうに刻むのはたしかに、しりしりーだよなあ、なんて気になってきたりしてね。
しかしまあ、炒めたらいったいどういうふうになるのかもよくわからないので、しりしりにはしないで適当に大雑把な千切りにして今回はゴーヤーチャンプルーのゴーヤーをそのまんまパパイヤに置き換えちゃったのだった。ちなみにゴーヤーもそのときいっしょに買ってあったんですけど、こいつは薄切りにして塩で揉んで絞って梅干しとカツオブシと和えてオカズのひと品にした。
でパパイヤ炒めて食ってみると、なるほどこれはパパイヤだわ。熟してない若い実だけどやっぱりほのかな甘みがあるんだな。これはよいですね。おいしい。あまり経験のない味わいと歯応えだよ。けっこうよく炒めたつもりだったんだけど、それでもしっかりした噛み応えがあるからきっとしりしりして炒めてもくったくたになったりしなさそうだもんな。んー、気に入った。うちの人っちもみんなおいしいっていってるし。値段もべつに高いわけじゃないしまた買いに行こう。これでまた晩メシのレパートリーが増えてうれしい。
ところで話は変わるんだけど古波蔵保好さんという沖縄・首里出身の名エッセイストに「料理沖縄物語」という随筆があって、これが20何年か前に文庫になっているのをいまでもたまに引っぱり出してはぱらぱらと拾い読みするんだけども、もしかしてこのなかに緑色のパパイヤのことが書いてあったんじゃなかったかと食べ終わってから探してみると、やっぱりあった。
暖かい島なので、果物が豊富にあってよさそうだのに、実際には恵まれているとはいえなかった。じつはパパイヤをそうやって野菜として食べるようになったのって、もしかして戦後のことなんじゃないかと想像してたんだ。古波蔵保好さん(1910年生まれ)のこの随筆はおもに戦前の沖縄の食生活や家庭生活について描かれたものだから、べつにパパイヤは戦後沖縄で普及したものじゃなくてずっと昔から日常生活のなかにあったってことなんだろうな。なるほど、そうだったのか。
もっともわたしたちの身近にある果物はバナナとパパヤである。屋敷の一隅にその二つのうちのどっちか、あるいはどっちも植えている家が多く、自然に実がなるのを待つ。
(中略)
パパヤは、よく熟したものでも、台湾産におよばない。沖縄の人たちは、果物として熟させるより、若い実を野菜として使うことが多かったのである。
野菜としてのパパヤは、皮をむいて薄切りにし、牛肉とともに炒めると、ステキなオカズになった。当時は牛を食用として飼育するというより使役したあとで肉にするという傾向が強かったから、肉質がひどく硬かったのであるが、パパヤには蛋白質をとかす成分がふくまれているため、いっしょに炒めるだけで肉をやわらかくしたのである。賢明な食べかただったといえるだろう。
じゃあ、こんどは牛肉を買ってきてパパイヤといっしょに炒めてみよう。どうせウチは柔らかい牛肉なんてめったなことじゃ買わないから、そういうところも我が家にはうってつけの野菜じゃありませんか。しかもパパイヤ自体歯応えがあるからいかにも食ったなあーって気にさせてくれるしね。こんかいはスパムといっしょに炒めちゃったから、そういう意味じゃちょっとパパイヤの有り難みが少なかったかもしれない。
本のなかで著者が料理の手順に触れているところは、子どものころ保好さんが料理をするお母さんのそばにいて見ていたのを思い出しながら書いているようで、どうも書かれたままをやってみてもそうはなりそうにないところがあったりする。もしかすると著者自身は料理をしない人だったんじゃないかな。それよりも台所で料理をしているお母さんの様子をじっと見ていたはるか昔を思い出すことのほうが、料理の手順よりずっと大事だったんじゃあるまいか。(朝日文庫 90年1月20日発行。たぶん絶版)
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虎吉
at 2013-10-04 19:22
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ゴヂラどの
肌寒い週末です。お大事に。
いや~、懐かしい表紙です。でも小生の本棚にはない……。若気、いや、中年になって<もの>がわかってない脳みそなんです。
記憶をたどれば、ダンディだったとか。文章もあかぬけて洒脱な感じでしたかね(薄い記憶ですが……)。
パパイヤと牛肉炒め、いただきたいです。
肌寒い週末です。お大事に。
いや~、懐かしい表紙です。でも小生の本棚にはない……。若気、いや、中年になって<もの>がわかってない脳みそなんです。
記憶をたどれば、ダンディだったとか。文章もあかぬけて洒脱な感じでしたかね(薄い記憶ですが……)。
パパイヤと牛肉炒め、いただきたいです。
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宗助
at 2013-10-04 21:47
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古波蔵さんは仰る通り自分で作る人というより、美味しいものを食べてそれを紹介する人と言う印象でしたね。
思えば、私が銀座のカフェ・ド・ランブルに通いだしたのも古波蔵さんのエッセイがきっかけでした。
サラリーマンになりたての頃、やはりエッセイで読んで渋谷にあったシェ・ジャニーと言うレストランに、小遣いのある時はちょっと背伸びをしてよく行ったものでした。
ネットで見たら、シェ・ジャニーはいま安比高原にお店があるとか、往時茫々であります。
思えば、私が銀座のカフェ・ド・ランブルに通いだしたのも古波蔵さんのエッセイがきっかけでした。
サラリーマンになりたての頃、やはりエッセイで読んで渋谷にあったシェ・ジャニーと言うレストランに、小遣いのある時はちょっと背伸びをしてよく行ったものでした。
ネットで見たら、シェ・ジャニーはいま安比高原にお店があるとか、往時茫々であります。
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ハルズ
at 2013-10-05 19:08
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写真を見ている内に、「青いパパイヤ」という映画を思い出してしまった。
ちょっと、切なかったような.....。
熟したものが当たり前な気でいると、熟していない物は、なぜかちょっと切なく感じてしまう。
ヘンかな?
ちょっと、切なかったような.....。
熟したものが当たり前な気でいると、熟していない物は、なぜかちょっと切なく感じてしまう。
ヘンかな?
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god-zi-lla at 2013-10-06 06:41
虎吉さん こんちは。
風邪引いちまいました。こう気温が上がったり下がったりするとダメですね。昔だったら風邪引いても1日寝れば治ったのに、トシやねえ。
パパイヤには蛋白質をどうにかする酵素が含まれてるんですってね。いや、どうにかするってのは「溶かす」って言っていいのか「別のなにかにする」ってことなのかわかんないもんですから。とにかくそれが肉を軟らかくするらしい。
昔の人の知恵ですね。
風邪引いちまいました。こう気温が上がったり下がったりするとダメですね。昔だったら風邪引いても1日寝れば治ったのに、トシやねえ。
パパイヤには蛋白質をどうにかする酵素が含まれてるんですってね。いや、どうにかするってのは「溶かす」って言っていいのか「別のなにかにする」ってことなのかわかんないもんですから。とにかくそれが肉を軟らかくするらしい。
昔の人の知恵ですね。
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god-zi-lla at 2013-10-06 06:48
宗助さん こんにちは。
なるほど宗助さん世代にとって古波蔵保好さんというのはそういう存在でしたか。だけど、20代のおれには少し遠い感じでした。この「料理沖縄物語」を読んで初めて親近感を覚えましたが、かえって家庭画報やらなんやら、わりと高級な雑誌に書かれたエッセイをごくたまに読み囓った程度のこっちにしてみると、そういう美食エッセイと料理沖縄物語のギャップを覚えたところも正直ありました。
なるほど宗助さん世代にとって古波蔵保好さんというのはそういう存在でしたか。だけど、20代のおれには少し遠い感じでした。この「料理沖縄物語」を読んで初めて親近感を覚えましたが、かえって家庭画報やらなんやら、わりと高級な雑誌に書かれたエッセイをごくたまに読み囓った程度のこっちにしてみると、そういう美食エッセイと料理沖縄物語のギャップを覚えたところも正直ありました。
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god-zi-lla at 2013-10-06 06:58
ハルズさん こんにちは。
「青いパパイヤ」なんて映画があったんですか? なんか思わせぶりなタイトル(笑) 熟してなくて青くて硬くて、食べると少しがりがりしてる感じだけど、しっかり熟れて果汁たっぷりのと同じ果物なのにまるで違う、なんちゅうか青春ぽいところが(いや、もっと幼いイメージか)魅力って感じでしょうか。
「青いパパイヤ」なんて映画があったんですか? なんか思わせぶりなタイトル(笑) 熟してなくて青くて硬くて、食べると少しがりがりしてる感じだけど、しっかり熟れて果汁たっぷりのと同じ果物なのにまるで違う、なんちゅうか青春ぽいところが(いや、もっと幼いイメージか)魅力って感じでしょうか。
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ihiga
at 2013-10-09 20:38
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ゴヂラさん、
パパイヤの炒め物、気に入っていただいたようでよかったです。
沖縄だとパパイヤは種さえまけばどこにでも生えてきます、まるで雑草のような生命力です。実家の裏庭にもあります。タイやベトナムでは青いパパイヤをサラダとして食べるようで本場ものは極辛ですが味を占めると病み付きになってしまいます。これも試してみてください。
パパイヤの炒め物、気に入っていただいたようでよかったです。
沖縄だとパパイヤは種さえまけばどこにでも生えてきます、まるで雑草のような生命力です。実家の裏庭にもあります。タイやベトナムでは青いパパイヤをサラダとして食べるようで本場ものは極辛ですが味を占めると病み付きになってしまいます。これも試してみてください。
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god-zi-lla at 2013-10-09 21:57
ihigaさん こんにちは。
このたびは、いい食べものを教えていただいてありがとうございます!
家族全員気に入ってしまいましたので、これは多分ゴーヤー同様わが家の食生活に定着すると思います。
> 沖縄だとパパイヤは種さえまけばどこにでも生えてきます、
そうなんだそうですね! じつは調理して皮や種を捨ててしまったあとで、それを何かで読んで「しまった!」と後悔してしまったのでした。
次回食べたときには、植木鉢かなんかに蒔いてみようと思ってます。
極辛のパパイヤサラダも研究してみます。
このたびは、いい食べものを教えていただいてありがとうございます!
家族全員気に入ってしまいましたので、これは多分ゴーヤー同様わが家の食生活に定着すると思います。
> 沖縄だとパパイヤは種さえまけばどこにでも生えてきます、
そうなんだそうですね! じつは調理して皮や種を捨ててしまったあとで、それを何かで読んで「しまった!」と後悔してしまったのでした。
次回食べたときには、植木鉢かなんかに蒔いてみようと思ってます。
極辛のパパイヤサラダも研究してみます。
by god-zi-lla
| 2013-10-04 13:08
| 食いモンは恥ずかしいぞ
|
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