神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

この2か月で読んだ本の備忘録

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古い話をしてすいませんけど、おれら夫婦が結婚して六畳と四畳半のボロアパートに暮らし始めたとき、家財道具のたぶん七割がたが本だった(おたがい、独身のうちに不要な本を大量に処分してきたはずなのに)。なにしろ二人合わせてスチールの本棚8本のすべてに棚といわず上下の隙間といわず本が乗っかれるあらゆる隙間という隙間に本が刺さってんだからさ。いったい全体何冊あったんだろうな。あの根太が腐って歩けば畳がぶよぶよと波打つアパートの床がおよそ2年、よく持ったもんだと思うよ。

その本の中身の詮索はともかくとしてもだな。まあこれだけ本にうずもれて暮らしてる夫婦が本嫌いなわけはないんだ。それから子どもを女の子と男の子の二人授かって、べつにどちらも分け隔てなく同じように育てたつもりだったのに女の子のほうはよく本を読む小学生になり、男の子のほうはマンガとゲームの好きな小学生になった。

いま娘はアラサーで独り暮らしをしていて、たまの休みにウチへメシでも食いに来たついでに、そのへんに積み上がってる親ふたりの読み終わった本の山から気に入った数冊を抜いて持って帰るのがほとんど習わしのようになってるんだが、おれたちと一緒に暮らしてる社会人3年目に入った息子のほうはといえば、そんな本どもにはいっさい目もくれずに相変わらずマンガを読み耽り自室のカードゲームの山にうずもれて寝起きしてるんだ。

いやだからどーっていうんじゃないんだ。まったく同じ家庭環境で育ちながらここまで違ってんのが、なんかすごく面白いことな気がしてさ。んー、こういうことについては意外と家庭環境の影響力って大きくないんだなと思ったりするわけです。息子なんか親の影響力を断固排除してとうとうゲームの会社に就職しちゃったから、まったくたいしたモンだと思うよ。うっかり読書なんかにハマってたら、こうはいかなかったかもしれない。

こないだ、いまの大学生のうち4割が1日のうち読書に割く時間がゼロだって何かの調査のことがニュースになってましたけど、まあそれだけあげつらって嘆いたりするようなモンでもないと思うんだけどね。これってようするにすべての大学生にはヒマな時間が山のようにあって、なのに読書する時間がゼロっていうのはどーよ、ったくイマドキの大学生は! みたいなオトナの先入観に基づいた根拠のない床屋談義的な悲憤慷慨を惹起するためのニュースなような気がしてさ。

読書する人生も、しない人生も等価です。
読書がおれの人生に役立ってるのかないのかなんて考えたこともない。だけど本を読むってことはホント楽しいモンだよなあとは、いつも思う。ウチの息子もきっとゲームはホント楽しいよなあと毎日思ってるにちがいない。お互い、楽しめるものがあってよかったよなあと、それだけだな。

左から。

人間昆虫記 手塚治虫(秋田文庫)
転がる香港に苔は生えない 星野博美(文春文庫)
ジャズ・ロックのおかげです 中山康樹/ピーター・バラカン/市川正一(径書房)*古本
子どもの難問 哲学者の先生、教えてください! 野矢茂樹・編著(中央公論新社)
グルダの真実 クルト・ホーフマンとの対話 フリードリヒ・グルダ/田辺秀樹・訳(羊泉社)*古本
特攻隊と〈松本〉褶曲山脈 鉛筆部隊の軌跡 きむら けん(彩流社)
地図で読む東京大空襲 両国生まれの実体験をもとに 菊地正浩(草思社)

というわけで手塚治虫は読書会のお題だった。
医学の学位を持っていて、生物について専門的な知識を持っている著者が昆虫というコトバをたんなる飾りとして使うものかどうか。あるいはファーブルの「昆虫記」をまったく意識しないで昆虫記という文字をタイトルに取り込むことが手塚治虫という人においてありうるのかどうかということを考えてるうちによくわからなくなってきた。

星野博美と高野秀行と角幡唯介の3人はまるで書くものが違ってはいるんだけど、3人とも普通の人はそこまで行かないだろうっていう「真っ只中」に飛び込んで、自分の五感のすべてを総動員して受容したものを文章に刻みつけてくるという意味ではよく似てるんじゃないかという気がする。

香港が中国に返還されて総督と駐留英軍が撤退した翌日の早朝、人民解放軍が国境を越えてひっそりと「入城」する瞬間を見届けてた日本のジャーナリストなんてほかにいたのか。それがどういうことなのかを認識してた日本のジャーナリストがほかにいたのか。

この人はタダモノじゃないよ、やっぱり。もっと早く読んどけばよかった。
だけど、近所の喫茶店の店員の男の子にほのかな恋心を抱いてたりしてカワイかったりもする著者なのであった。

ジャズ・ロックって何だ? って特集を組んだジャズ批評誌はホントに馬鹿馬鹿しくて面白かった、とは思ったんだが、まさかそんなテーマを20年も前に本にしてたバカな出版社があるなんて思いもしませんでしたね。いやあースティーヴ・マーカスのカウンツ・ロック・バンドのジャケットが表紙を飾ってるんだもん。しかもなんかデザインまでサイケ調だしさ。ほんと、ばっかだなあ。

で、これを読んだところでジャズロックとはそもそもなんなんだという疑問にはまったく答えてくれてないのであった。そういうことじゃなくて、なんかこう得体の知れない、実体のあるような無いようなものを面白がるっていう、それだけなのよね。筆者も読者も。

子どもの難問は途中まで、これはなかなか良い本だなあと思いつつ読んでたんだけど、読み終わるころにはそのへんの判断はちょっと保留にしとこうかなって気分になっててね。しばらく置いて、もういっぺん読んで確かめてみようかとも思う。考えることについて考えることは好きなんだよな。

グールドについて書かれた本はそれこそ売るほどあるのに、グルダについて書かれた本を見たことがなかった。たしかにこれはグルダがどうやって育ち、なぜジャズやほかのアートに手を染め、何を考えてるかよくわかる本ではあるんだけどさ。これはグルダについて書かれた本じゃなくて、グルダがグルダを語った本なんだよな。なかなか。

だけどこの人は徹頭徹尾ウィーンの人なんだな。
ブレンデルもデームスもバドゥラ=スコダも、みんな親戚みたいなモンだってさ。

鉛筆部隊と特攻隊の続編は、今度はその本自体の反響と新聞に載った書評と著者が出演したラジオ深夜便によってさらに広がりと深さのある進展を見せて、たんに続編というところにまったくとどまらないで、さらにいろんな問題を提起してすごいことになっている。

それにしても当時を経験したいろんな人たちが自分の死を前に語り始めているんだなと思わずにいられない。おれの父の語るのを聞いてても、そう思う。いままで知られていたのとまるで違う、戦争と人間の関係というのかな。キレイゴトと露悪趣味の間でウンザリしてた人たちがようやく語り残そうとしているコトバ。いまの世間が再びヤバい雰囲気になってることも多分あると思う。

もう1冊の戦争についての本。学童疎開があって東京大空襲があって、学童疎開先から東京の下町に戻ってきた小学生たちが、じつの親も住む家も空襲で失って戦災孤児になったケースが多かったってことを迂闊にも知らなかった。母と祖父(お父さんは出征して留守、のち戦死と判明)とともに辛くも東京大空襲を逃げ延びた「地図で読む東京大空襲」の著者には隣近所の幼馴染みがひとりもいないんだそうだ。東京にいた子は空襲で死に、疎開していた年上の兄さんたちは戦災孤児になって行方知れず。

3人が両国から上野公園まで走って逃げた道筋が地図の上にプロットされている。掲載された「戦災消失区域表示(こんなものが作られていたんだ!)」を合わせて見ていると、たぶん奇跡に近いことだったんだと思わずにいられない。この著者も鉛筆部隊で証言している人たちと同様、語り残さなければならないという衝動に突き動かされているんだと思う。著者の細かい事実誤認を編集者が見過ごしてるところが少しだけ残念だが、これはツカの薄さにくらべてずっと重たい本です。

(けっこう直しました。4月2日06:23)
Commented by ハルズ at 2014-04-03 13:01 x
いつも精力的に読んでいらっしゃいますね。
鉛筆隊の本は、私は読むのを止めました。それは長野県出身でおまけに近くなもので、地元の子供たちに、いじめられたとか、色々出て来ると、先に進まなくなってしまって.....。
Commented by ニブ at 2014-04-03 14:09 x
god-zi-lla さま、こんにちは

>読書する人生も、しない人生も等価です。

こういう親の下では、弟さんは安心してお姉さんとは違う路線を行くことができたのではないでしょうか?素晴らしい。
そして、息子さんは読書の楽しみを知っていると推測します。
勝手な妄想です、すみません。
Commented by god-zi-lla at 2014-04-04 14:20
ハルズさん こんにちは。
べつに来てほしいと頼んだわけでもないのに押しかけてこられた地元の子どもと、親から引き離されて行きたくもない知らない土地へ強制的に行かされた都会の子どもが、そもそもうまくいくわけがないんでしょうね。

新刊のほうになると引率した教師(鉛筆部隊を指導した担任)にまつわる気持ち良くない話だとか、戦後の豹変ぶりだとかも、当時小学生だった老人たちの証言で明るみに出てきます。

だから、読みやすくはないですね。

最近、自分の父が話す戦争末期の予科練時代の話もまた、あんまり聞きやすくない話が多いです。
Commented by god-zi-lla at 2014-04-04 14:27
ニブさん こんにちは。

まあ息子のことはともかくとして、上っすべりな小説なんか読んでるよりもはるかに読み応えのあるマンガが山ほどあるのは間違いのないところですから、文字だけの本を読むか絵と文字の本を読むかの違いだけなんでしょうね。
Commented by ihiga at 2014-04-05 18:08 x
グルダの本は面白そうですね。今度、帰国した際に探してみます。
ウィーンは大都会のようなイメージがあるかもしれませんが実際は日本でいう地方都市の様でオーストリアの人に言わせるとしがらみも、ことならではのしきたりや排他的なところもあって必ずしも住みやすいところでは無いようです。
Commented by god-zi-lla at 2014-04-05 18:42
ihigaさん こんにちは。

この本を読んで、グルダが想像以上に破天荒な人だったってことがよくわかりました。だけど一方で12音主義や無調の20世紀音楽を認めない(バルトークまで!)音楽的にはとても保守的な人だったってことがわかります。

同じウィーンのピアニスト、B=スコダがバルトークやヒンデミットを録音し、じっさいにコンサートで普通に演奏しているのとすごい対照です。

パブリックイメージとしてはグルダのほうがよっぽど新しい感じなのに、面白いです。もしかするとB=スコダよりグルダのほうがよりウィーンの伝統に忠実なんでしょうか。

グルダと新ウィーン楽派の3人って、同じ時期のウィーンの空気を吸っていたと思うんですが、この本でグルダは何も語ってなくて、そのへんがこの本のいちばんモ物足りないところでもあります。

だからやっぱり、グルダを論じた本を読みたい。日本語で(笑)
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by god-zi-lla | 2014-04-01 23:16 | 本はココロのゴハンかも | Comments(6)