神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

パン切り包丁を研ぐ

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ゆうべは地下鉄日比谷線を人形町駅で降りて甘酒横丁をてくてくと浜町の明治座で染五郎の伊達の十役を見物した。弁当はあらかじめ仕入れて行ったんだけど人形町に降り立ったとたん、そういやこの町には今半があったではないか。しまったなあ。あそこの牛肉弁当がなかなかのモンなんだよと、しかし後悔というものが先に立った試しはないのであった(ちなみに当夜のおれの弁当は梅林の生姜焼き弁当。ブタかギュウかということである)。

それはともかくとしてだな。いやなかなか、染五郎大奮闘による伊達の十役を見ながらやっぱり歌舞伎ってのは日本でいちばん大がかりに馬鹿馬鹿しい大衆演劇だよなあ。あれだけ座長役者が身体張って汗だくになりながら休憩をはさんで約4時間出ずっぱりでお客にサービスしまくる芝居なんてめったにないよ。

まあ、あまりに大仕掛けに過ぎて主役を張る役者の消耗も並や大抵じゃないでしょうし、忠臣蔵の七段目とか曾我の対面やなんかと違って年に何回もやるような演し物じゃあ当然ないのはわかりますが、おれら一般大衆の万年初心者はああいう大仰なやつをたまには見物したいと思うよ。

染五郎が再演したら、また見に行こう。

というような歌舞伎とはなんの関係もないのがパン切り包丁であった。

ついせんだって包丁6本まとめて研いだばっかりなんだけどパン切り包丁は研ぎませんでした。これはやっぱりね、特殊なんです。だいたい使う場所が台所だけじゃなくて食卓の上だったりすることもあるくらいでね。いわゆるひとつの調理器具としての包丁というのとは用途からして違ううえに、とにかくこの刃の形状というのが何を置いても特殊だからね。

ずっとパン切り包丁を研いだことなんてなかったんだよ。なにせこのナミナミだもん。こんな波形になった砥石なんてないしさ。だいち、そんなものがあったとしたって、そこにうまいことナミナミの刃先が乗っかって研げるとは到底思えない。もしかして刃物研ぎのプロであれば専用の砥石などがあるのかもしれないけど、そんなモノは見たこともないし。だから切れ味が悪くなったらどっか研ぎ屋さんにでも出そうかと思ったこともあったんです。

でね、あるときパン切り包丁の刃をしげしげと眺めておりましたら、この波状の刃の部分というのは片刃なんだということに気付いた。ようするに刃の片側からだけ何か波形のグラインダーなどをあてがって刃を付けてるようで、もう片っぽうの面は平らだったんだ。

んー、もしかしたらこの平らな面を研げば少しくらいなら切れ味が戻るんではあるまいか。ちろん新品同様になってほしいなんてとこまではけっして期待いたしません(百円ショップで売ってる包丁だったら自分で研ぐだけで新品よりはるかに切れるようになるんだけどね)。だけど自分ちで研いでソコソコまで復活してくれりゃあ、それだけでもめっけもんだもんな。

で数年前おっかなびっくり研いでみたらうれしいことにそこそこ切れ味が戻ってくれたんです。まあふつうの包丁の研ぎたてみたいに思わずトマトを皮ごとみじん切りにしてやりたくなるほどスパスパ切れるまでにはならないんだけど、それはいくらなんでもパン切り包丁にはオーバースペックってもんですからね。いやもうじゅうぶんカンパーニュや食パンを押しつぶさずに切れる程度にはなるってことがわかっただけでいいんだ。

写真に写ってんのは刃が付いてる側なので、この面は研いだことありません。ただ、そうするとバリ(あるいは『返り』)がこの面の刃先に出ちゃったままになるから、最初のときは棒ヤスリ状の包丁用シャープナーの曲面側でナミナミをひとつひとつ撫でてたんだけど、今回はキッチンペーパーを固く何重にも折りたたんだのを試し切りするように何回か切ってみた。

ところで包丁の下に写ってる灰色のブツは砥石です。ふだんはふつうの赤茶色した砥石で研いでるんだけども、このパン切り包丁とあと1本、木屋の洋包丁の2本は非常に硬いステンレス製のせいか赤茶色の砥石だとなかなか研ぎ上がらない。なのでもう少し番手の粗いこの灰色をした砥石でもって研ぐことにしてるんです(荒砥とは別)。コイツを買った刃物屋のおじさんによると原料はアルミナを固めたもので、ふつうの砥石のように水に浸さないで随時水を流しかけるだけで使うよーにとのことだったので、そのように使って研いでいる。

まあパン切り包丁ってのはそれほど固いモノを切るわけじゃないし、ネギのようにヤワそうなフリだけしてじつは手ごわい繊維を断ち切らなきゃならないってこともない。そのうえ使う頻度からいってもほかの台所包丁ほど頻繁に研ぐ必要なんて全然ないの。そうはいっても包丁ってのは研いでりゃあちょっとずつでも刃がチビてくるわけです。ウチのその非常に硬いステンレス素材の木屋の洋包丁ですら気付いたらけっこうチビてきて、あと10年もすればペティナイフになるのは間違いない。だからヘナチョコ素材の百円ショップの包丁なんか数年研ぎ続けただけで、こんなことになっている。

とするとですよ。このパン切り包丁もあと何年か10何年か何10年かすると刃先のナミナミ部分を全部研ぎ切ってしまってさ。そうするとまあパンを切るにはちょっと不向きな、ただ直線の刃のついたやたら細長い包丁というようなモノになっててさ。もしかしたらコイツひそかに刺身包丁に転職してたりなんかするのではあるまいかなんて愚にもつかないようなことを思いながら、明日はこのナミナミのナミナミ残っているパン切り包丁で固いパンを切ってみようと思う夜なのであった。
Commented by ハルズ at 2014-05-16 10:23 x
パン切包丁ってのは、砥げるののか。
わたしはまた、のこぎりのように目立てするのかと思っていた。
知らなかった・
Commented by god-zi-lla at 2014-05-16 12:23
ハルズさん こんにちは。

おっしゃるように、もしかするとプロは鋸の目立てみたいにパン切りを研げるのかもしれません。だけど、そんなワザはシロートにはないので、せいぜい刃の付いてない片面だけを研いで少しだけ切れ味を戻す程度のことしかできません。

もっとも刃がふつうの洋包丁のように両面につけてあるパン切り包丁があったとしたら、これはもうシロートの手には負えないんじゃないかと思います。
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by god-zi-lla | 2014-05-14 23:40 | 食いモンは恥ずかしいぞ | Comments(2)