神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

魚屋宗五郎(京都四条南座歌舞伎見物その3)

魚屋宗五郎(京都四条南座歌舞伎見物その3)_d0027243_841578.jpg
妙心寺の塔頭、退蔵院の庭にあった水琴窟の仕込まれたつくばい。寒い薄曇りの夕暮れどきに訪れたせいか、おれたちのほかに拝観のお客さんといっても一人二人、おかげで、きん、きんと水滴の落ちる響きを小さいけどはっきり聞くことができたのだった。なんというか鉄琴のようで鉄琴でなく木琴のようで木琴でなく、これは水琴なのだよなあなという音。鍾乳石の先端から落ちた水滴が地底の湖面を打つ音の鮮やかにして極小のミニチュア、なんてね。

で新口村の幕が引かれたところでちょうどお昼どき、30分の幕間虎吉さんの先導で四条通で蕎麦でも手繰ろうかと隣りのにしんそばで有名な松葉はすでに満席で、八坂神社に寄ったほうにちょっと離れた蕎麦屋で思い思いにとろろ蕎麦とにしん蕎麦と鴨南蛮を大急ぎで食って席に戻れば幸四郎の魚屋宗五郎だ。

しかしさすがに祇園四条の店屋だな。蕎麦屋のおばちゃんがそわそわと落ち着きのないおれら3人を見て顔見世の幕間ですかって見抜きましたね。京の師走といえば顔見世。町なかの季節感てのはこうしたものであるんだよなあ。季節はべつに野山にあるとかぎったもんでもない。しかしまあ季節季節を飾るいろいろの年中行事のあるのはさすがに京都だな。もちろん東京にだってそんな年中行事はいくらでもあるんでしょうけど、そういう季節感をひとびとが親しく共有するには東京はしかし大きくなりすぎたのかもしれないよね。

魚屋宗五郎もよく舞台にかかる芝居ですけど、おれはたまたまめぐりあわせなのかこれが初めてなのだった。

始まるといきなり宗五郎とその女房おはまと宗五郎の父親に若い衆の三吉の四人がなにごとかに悲憤慷慨している。どうも宗五郎の妹を旗本の殿様のとこへ妾奉公に出してたのが不義密通の濡れ衣を着せられてお手討ちになり、その遺骸も戻ってこないところにそれと知った弔問客が訪れたりもしてるところなのが四人の会話から辛うじてわかるのであった。たぶん前の段で妹が殿様に見初められるイキサツだとか、家来の悪だくみに巻き込まれて無実の罪を負わされるところとか、そういうのがあるんだろうと思うんだけど、とりあえずそんな説明はれいによって全然ありません。

とにかく宗五郎が女房や若い衆の止めるのも聞かず角樽の一升酒をぐいぐいあおって見る間に酔っ払い、その勢いでカラになった角樽振り回しながら殿様の屋敷へねじ込んで家来相手に大暴れ、挙げ句の果てに玄関口でぐうぐう寝込んで運び込まれたのが奥座敷のお庭先。酔いが醒めればそこに現れた殿様の姿に平身低頭してしまう宗五郎の変貌ぶりのおかしさが見せ場になっていて、それでこの段だけが魚屋宗五郎つう愛すべき主人公の名前で独立しちゃってんでしょうね。

だからヘンに明るいんだ。しょっぱなの宗五郎宅のとこなんかジョーシキ的に考えりゃ完全に愁嘆場でしょうと思うんだけど、たぶん酒飲んで大トラになる宗五郎を際立たせるために全体を落語的にしてるんだろうな。出しゃばりで早合点な若い衆の三吉とかね。女房おはまも必死に旦那を止めてるくせに、アクションは目一杯コミカルだったりして落語的だ。

だいち、最後は妹を無実の罪で殺されてんのに、自分の勘違いでお手討ちにした当の殿様はあっけらかんと破顔一笑、宗五郎はそのにっこり笑った殿様から弔い金と褒美までもらってメデタシメデタシのこれじゃあまるでハッピーエンドじゃないか。おいおいおいおい、これでいったいホトケさんは浮かばれるのかい。

スラップスティックです。そうとしか言いようがないね。
幸四郎演ずる宗五郎のみごとな酔いっぷりと(醒めっぷりも)、女房おはまの軽妙な動きと(魁春さんがまたいいんです)、おっちょこちょいな三吉(これを演ずる亀鶴はいつ何を見ても達者だ)を笑って大いに楽しむ以外お客はなにをやったらいいというのであろうか。

to be continued(そろそろいいかな)
Commented by 虎吉 at 2014-12-22 17:55 x
こんにちは。冬至で、ゆずにかぼちゃですね。
旅の疲れもなく、日々お過ごしのようで何よりです。歌舞伎録は残すところあとひと演目。楽しみにしております。

ところで「ONE PIECE」が歌舞伎になるそうですね。
「ONE PIECE」を読んでないのでよくわからないですが、いまで75巻という大絵巻。どういう内容になるんでしょうかね……。
Commented by god-zi-lla at 2014-12-23 09:31
虎吉さん どうもです。

ワンピを猿之助がスーパー歌舞伎2ndでやるというのを新聞で読んでビックリしました。けど、おれは自分の子どもたちがワンピをそれほど熱心に読んでなかったから、おれもほとんど読んでなくてわかりません。これが「るろ剣」をやるとかやらないとかって話ならどうこう言えるんですけどね(笑)

でもきっと、風変わりで面白いものを作ってくれるんじゃないですかね。ちょっと楽しみです(だけどチケット取るのが大変そうだなあ)。

脚本と演出をそれぞれだれがやるのかが、キモですね。

話は違いますが、ここんとこの猿之助の歌舞伎は、照明がすごく印象的です。
名前
URL
削除用パスワード
by god-zi-lla | 2014-12-21 23:28 | 物見遊山十把一絡げ | Comments(2)