神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

赤いゼムクリップ

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このまえの日曜日。新橋駅前ビルの小川軒のあたりでバスを降りて銀行や郵便局で用を足したあと日本橋で映画を見ようと、中国人だらけの銀座中央通りを歩いて銀座2丁目にさしかかったところ、おー懐かしいあの赤いゼムクリップが見えるではないか。

銀座の伊東屋が建て替えのため裏通りの仮店舗に移転してからもうずいぶん経つんじゃなかろうか。その伊東屋にかぎらず銀座はここ10年くらいの間にあちこちで建て替えが始まって、6丁目の松坂屋のあったところなんてほぼ1ブロックそっくり建物が取り壊されて広大な空き地が出現、一時はすごいことになっていた。

伊東屋はそんなに大きなビルじゃなかったけど、中央通りに面した1丁目から4丁目のあいだではなかなかに目立つ店でもありましたから、ここ数年の「不在」というのは結構さびしいものがあった気がするんだよな(裏通りの仮店舗で営業してますってだけじゃあ、やっぱり何かがね)。

ところで伊東屋の取り壊されたあたりからさらに進んで京橋まで目と鼻の先の銀座1丁目にはかつて「つばめグリル」の古い古い建物があったんだが、これはもう5年や6年じゃないもっと以前伊東屋が取り壊しになるはるか前、新しいビルに建て替えてリニューアルオープンしますと宣言して閉店したのでありました。

と思ったら取り壊された跡地は仮囲いのされたまま一向に新しいビルディングの建つ気配もなくてさ。こりゃあいったいどうなっちゃったんだろうと思ってるうちにそのあたり全部取り壊されて、気がついたら最近の銀座の表通りといわず裏通りといわずあちこちにはびこっているのと大同小異、総ガラス張りの一見小洒落たふうだが建って半年もすりゃあどれがどれだかさっぱり見分けのつかなくなっちゃうデカい雑居ビル(とは言わないんでしょうけど店子といえばブランドショップと飲食店と有象無象のオフィスだから実体は同じだな)が建っちゃってさ。で、そのビルのどっかに入居したに違いないと思って探してみたもののどこにもそれらしい店はなく、ついに終戦直後に開店したという銀座1丁目の「つばめグリル」はだれにもことわりなしに雲はカスミと消え失せたのである。

で、おれは伊東屋もそうなっちゃうんじゃないかと気を揉んで、いやそれどころじゃなく、きっとそうなっちゃうに違いない、あー伊東屋も哀れ地上げ屋の毒牙にかかりしかと一時は諦めておったんです。

それが日曜日の昼下がり。かつて旧ビルの看板のうえにも乗っかって、裏通りの仮店舗のうえにもあって、さながら歌舞伎座の唐破風のうえにデンと居座る芝居櫓のような伊東屋のシンボル、巨大な赤いゼムクリップが日本橋へ向かうおれの目に飛び込んできたではありませぬか。おー伊東屋はなくならなかったんだ。なんかすごくうれしい。

銀座の近辺でずっと会社勤めをしてたおれにとって、若いころから銀座の文房具屋さんつうと2丁目の伊東屋と6丁目のずっと裏手、昭和通りに近いところにあった銀座文具のふたつが店構えも大きく品揃え豊富で、上司や先輩にアレ買ってこいコレ用意しろとお使いに出されて、どちらかへ駆け込めばまず用の足らないということのない文房具屋さんなのだった。

銀座ってね、華やかな「銀ブラ」の表通りと艶めかしい「夜の銀座」のほかに、じつはやたらにたくさんある「画廊の街」としての銀座とかさ。地方の新聞社の東京支社が軒を並べる銀座とか、あまり知られてませんが以前は大中小有名無名さまざまのデザイン事務所の集まっている銀座なんてのもあって、とくに中央通りから海側になると小さな事務所のひしめく街つうのが銀座の裏通りのホントの姿だったりするかもしれないくらいなんだよな。

なので基本、文房具屋さんの需要は多いんです。しかもデザイン系の会社なんかも多いからたんに事務用品だけじゃない品揃えの文房具屋さんは非常に存在感があったわけだ。

つうわけで日本橋で映画見るまでの少しの間、新しい伊東屋を冷やかしてきたんだが、以前から伊東屋はそういう店でもあったとはいえ今度はもう下から上までどのフロアも全部あまり実用とは関係なさそうなステーショナリー(なんてカタカナで言ってみるほうがピンとくるような)中心のバラエティショップって感じになっちゃっててね。いやまあこれはこれでとっても楽しいのは間違いないからなんの文句もありません。だいちイマドキ銀座の表通りでヤマト糊やセロテープ売ってても仕方ないんだしさ。

だけどあの以前の建物のときの中二階にあった高級筆記具のフロアがね。おれなんかが若いころだと、あのショーケースをちょっと覗き込むだけで緊張するような万年筆売り場が、いかにも銀座って感じがしたもんです。

じつはもう30年以上まえのことだけども、その伊東屋本店中二階の高級筆記具売り場で20代なかばの若造には分不相応な万年筆を買ったことがあってね。ショーケースからあれこれ出してもらって試したうえで一番手に馴染んで書きやすかった国産の万年筆を緊張しいしい買い求めたのだったが、1年くらい使ったころ自分の不注意でこれを壊しちゃってさ。あーやっぱりおれにはまだ早すぎたってことかと、以来上等な万年筆(に限らず高級な筆記具)を一度も自分で買って手にしたことがない。それがここ数年こっちもそろそろいいトシになってきたことだし、もう一度あの売り場で万年筆を求めてもいいかな、なんて思わないでもなかったんだ。

こんどの新しい店はそれなりに高級なものもあるにはあるようですけど雰囲気はうんとカジュアルになっててさ。どうもそういうお高い系の筆記具は一本裏通りにある別館のほうに移っちゃったらしいね。まあそれはそれでちっともかまやしないんですけど、万年筆売り場だけは今までどおり本店のどっかに置いといて欲しかったなあなんて思っちゃうのは、きっとおれが古いニンゲンだからなんだろう。

銀座の表通りのお店でちょっと上等な買い物するって、
なかなか晴れがましいものではありますまいか。
ことに日本人にとっては。
Commented by 虎吉 at 2015-06-24 16:17 x
こんにちは。
画像処理がなかなかいいで伊東屋が新装オープン--したんですね。懐かしの赤いクリップはそのままで。

小生も万年筆売り場は垂涎のものがありました。筆記具は万年筆が具合いいですね。ボールペンや水性ペンじゃでない書き心地があります。
Commented by god-zi-lla at 2015-06-24 19:29
虎吉さん お暑うございます。

虎吉さんが留守してる間に、銀座の町並みはどんどん変わってます。いいんだか悪いんだかわかりませんが、そういうものなんでしょうね。

わたしらオヤジは若いころの想い出に浸るのみ(笑)
Commented by kurama66644 at 2015-06-24 20:42
こんにちは。

銀座には20年以上勤めていました。
増えたのはコンビニ、チェーン居酒屋、中国観光客というところでしょうか。

今年の初めに数年ぶりに行きましたが様変わりして驚いてしまいました。

ステーショナリーではなく文房具が似合うと思います。
私も伊東屋と銀座文具にはよく行きました。
Commented by god-zi-lla at 2015-06-24 21:56
kurama66644さん こんにちは。

そうなんですか、 kurama66644さんもお仲間でしたか。 もしかしたら伊東屋の店内すれ違ってたかもしれませんね。

ところでその銀座文具も何年か前になくなってしまいました。
銀座はどんどん変わります。
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by god-zi-lla | 2015-06-24 12:02 | 日日是好日? | Comments(4)