この2か月で読んだ本の備忘録
2018年 03月 31日
左から。
日の名残り カズオ・イシグロ/土屋政雄・訳(ハヤカワepi文庫)
私の浅草 沢村貞子(暮らしの手帖)
珈琲が呼ぶ 片岡義男(光文社)
田中小実昌ベスト・エッセイ 田中小実昌(ちくま文庫)
五番町夕霧楼 水上勉(小学館P+D BOOKS)
クマにあったらどうするか 〜アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 姉崎等・語り手/片岡龍峯・聞き書き(ちくま文庫)
カズオ・イシグロを読書会でやるのは〈わたしを離さないで〉以来2作目。いやもう何も申し上げることなどございません。この結構な時の行き来を滑らかに読ませることといったら。
70年代もおしまいの頃、雑誌「暮らしの手帖」の新聞広告の脇に花森安治の書き文字で〈私の浅草〉とある単行本の広告が抱き合わせで何回か出た。読んでみたいよなあと思いながら買わずにいたら、そのうちエヌエッチケーの朝のドラマの原作になり世間で話題になった。まあ仕方ない、ほとぼりの冷めたころに読んでみようと思ってたらそのままになっちゃった。
それがなんでまた今ごろになってかっつうと角川シネマ新宿の大映女優祭の1本としてかかった黒澤明の〈羅生門〉をたまたま見たら加東大介が出ていた。
加東大介の姉は沢村貞子だったよなあ。沢村貞子といやあ〈私の浅草〉を読もうと思ってそれきりだなあ。
で大きな本屋で文庫の棚を端から見てったら平凡社ライブラリーにあるのがわかったんだけど、たまたまその日は荷物がいっぱいで買わずに出てきたもんだから、あらためて紀伊國屋書店のウェブストアで検索したところ元の版元の暮らしの手帖社から新装版が出てるのを知って、値段もあまり違わないから味気ない装丁の文庫版よりオリジナルの花森安治装丁のイメージを引き継いだような新装版のほうがいいと思って注文したんでした。
まわりくどい話をすまんね。
だけど20代のころに読みそこなって、じいさんになった今はじめて読んでこれは良かったね。ハタチそこそこの若造にはもったいねえや。
片岡義男は珈琲についての蘊蓄を語るわけじゃなくて、珈琲を出す店、そこを行き交う人の来し方行く末、珈琲と音楽、珈琲と映画、それを聴く人見る人。
ようするに、珈琲が人生に呼び込んでくるモロモロである。
その片岡義男が田中小実昌のエッセイのアンソロジーに「解説」を書いている。田中小実昌と片岡義男を繋ぐものは英語、または翻訳。田中小実昌と片岡義男がゴールデン街の酒場のカウンターでたまたま隣り合わせに座って飲んでいる、なんて情景はこの解説を読むまで想像もしなかったけど、それはじゅうぶんアリなことだったんだな。
「ベスト」なので既読の作品もけっこうあったけど、何度読んだっていいものはいいんだよ。
水上勉は〈飢餓海峡〉しか読んだことがなかったが、なんだか後半みょうに筆を急いだふうに思えるのは気のせいかな。分量的にあと三割、できれば五割増しくらい書いてほしかったなんていう感想はヘンだけどさ。飢餓海峡のほうがぎゅうぎゅうといろんなものが詰め込まれて、ずっと読み応えのある小説だと思う。
生涯に60頭のヒグマを仕留めたアイヌの猟師が語るわけだから、これはすごいよ。しかもほとんど単独行で山に入って熊撃ちをしてきたというんだから経験の質と量が半端じゃない。しかしそもそもなぜ単独で山に入るようになったかといえば和人との混血でアイヌの集落では若いころ差別的な扱いを受けていたのがきっかけというのが少し悲しい。
まあそれはともかく、じっさいおれたちがそういう現場に遭遇することがあるかどうかわかりませんけど、クマがどういう野生動物でどのくらいの知能でどのくらいの運動能力があって、山に入ってくるニンゲンをどこからどうやって見てるのかを経験的に知ったうえで、突如メンと向かって出合ってしまったクマにどう対処するのがよいのかを本一冊使って語り尽くしてるんだな。
聞き書きだから何度もダブってるところも多いんだけど、一読、もうクマに出合っても大丈夫な気がしてきます。
それから写真に写ってませんけど、セトウツミ 此元和津也(秋田書店)全8巻完結したので読了。いやー、こういう結末を作家は最初から構想して書き始めたのか。すごい。
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虎吉
at 2018-04-02 23:11
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ゴジラ殿
こんばんは
春が足早にすぎ行き、初夏といった陽気ですね
ニュージーランドの旅、山に街に、楽しまれたことが伺えます
むせるような花の香りに日比谷での食事、いいですね
先の2ヶ月の本も素晴らしい 時の流れを香り豊かな珈琲とゴールデン街の止まり木に、そして女人の佇む様子に でも「クマ」はちとびっくり 本屋に行きたくなりました、実際にクマには会いたくないですが(苦笑)
ところで、春を堪能されているたけのこは漬物になるんでしょうか そうそうたけのこカウンターは置かないのですか?
こんばんは
春が足早にすぎ行き、初夏といった陽気ですね
ニュージーランドの旅、山に街に、楽しまれたことが伺えます
むせるような花の香りに日比谷での食事、いいですね
先の2ヶ月の本も素晴らしい 時の流れを香り豊かな珈琲とゴールデン街の止まり木に、そして女人の佇む様子に でも「クマ」はちとびっくり 本屋に行きたくなりました、実際にクマには会いたくないですが(苦笑)
ところで、春を堪能されているたけのこは漬物になるんでしょうか そうそうたけのこカウンターは置かないのですか?
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god-zi-lla at 2018-04-03 06:57
虎吉さん こんにちは。
東京はもうすっかり葉桜ですが、京都もおなじでしょうか。
あータケノコカウンターね。考えもしませんでした。奥さんのお父さん(出どころは多分お父さんの実家の裏山)から4本送られてきたので「00004」ですね。
タケノコは買うと高いので、いただくとうれしいです。どこから何本いただいてもうれしい。茹でる手間なんで旬のおいしさの前にはなんでもありません。
タケノコの漬け物ってのも考えてませんでした。
なるほど、漬け物かあ。ちょっと考えて見ます。
タケノコはまだあるので。
東京はもうすっかり葉桜ですが、京都もおなじでしょうか。
あータケノコカウンターね。考えもしませんでした。奥さんのお父さん(出どころは多分お父さんの実家の裏山)から4本送られてきたので「00004」ですね。
タケノコは買うと高いので、いただくとうれしいです。どこから何本いただいてもうれしい。茹でる手間なんで旬のおいしさの前にはなんでもありません。
タケノコの漬け物ってのも考えてませんでした。
なるほど、漬け物かあ。ちょっと考えて見ます。
タケノコはまだあるので。
by god-zi-lla
| 2018-03-31 12:10
| 本はココロのゴハンかも
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Comments(2)