いまの日本、アベがボトルネック


by god-zi-lla

こんなふうな構造だったなんて30年間知りませんでしたのさ(THORENS TD521のプーリー)

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花冷えとはまたうまく言ったもんだと感心するような曇り空だ。

どんなキカイもそうだけどオーディオ装置も長年使ってると次第に衰えてくるもんではある。衰えるってのはヘンな良い方かもしれないけど「劣化」つうと、なんだか情け容赦ないような気分がするじゃんか。人間だって年を取れば衰えてくるわけで、それを「劣化」といったっていいわけだが、なんかヤな感じだ。衰えると言われても老いぼれると言われても、おれはかまやしませんが「劣化」してるって言うのはカンベンしてほしいもんではある。

まあ、いまんとこ人間サマに使われる例は少ないようだが、まるでないわけじゃない。

だから慣れ親しんだオーディオ装置も劣化といわず「コイツも衰えたよなあ」などと言いつつ労りながら使ってやろうと思うわけだが、中古品として手に入れたものはソイツがさらっピンのときの状態というのを知らない。おれんちでいうとmarantz7が工場を出た半世紀以上もむかし、初めて電源を入れたときの音なんて想像もできない。

コイツがおれんちのラックに収まってからでもすでに10年が経つわけだが、その前の数十年、どんな音を出してたのかわからないが、最初っからいまと同じ音で鳴ってたと思うほうがヘンだ。

そこいくとトーレンスTD521つうレコードプレーヤーをおれは新品で買い、いったい何万回こいつでレコードを聴いたのか見当もつかないが、届いた段ボール箱をわくわくしながら開け取扱説明書の指示どおりに組み立て、ベルトをプーリーとサブプラッターに掛け、そこへアウタープラッターを乗せてゴムシートをさらに乗せ、それからレコードを出してきてスピンドルに刺し、初めて電源を入れスイッチを押してターンテーブルが回り始めたときにどんなふうだったかってのは覚えている。それがコイツの「初期状態」というもんである。

なんで長ったらしい前口上を申し述べてるかというと、最近のコイツはその30年前ドキドキしながら初めてレコードをかけたときとは随分と違ってきたということなんであるが、もしおれがコイツをいま中古品として手に入れたとしたら、これがTD521つうレコードプレーヤーの当たり前の状態だと思っちゃうだろうなあということである。

なにしろ無事スタートしたあとはモーターもちゃんと安定して回転しており、ひとたび針を盤面に下ろしてしまえばなんの不足もなく音楽を聴くことが30年前だってこんにちただ今だって出来る。

ただ、そこまでにいたる前がなんだかおかしい。なんかどっかが衰えてきてる。

しばらく前から(ひょっとすると1年かもっと前から)、ときどきゴムベルトがサブプラッターから外れるようになった。

このトーレンスTD521(それからTD520も、もしかしたらシリーズのTD320や321も)はきちんと安定した設置場所に水平に置かれたうえ、サスペンションを適正に調整してくと、あとはスタートボタンを押しさえすれば音もなくサスペンションがブルブルと振動するようなこともなくターンテーブルは回り始める。

もちろん普通に使ってるかぎりベルトが外れるなんてことはなくて、もしも外れるようなことがあればそれには必ずなんらか原因がある。そして、たいていの場合サスペンション調整の不適切がその原因だってことも長年使ってるうちにだんだんとわかってくる(つまり何度もサスペンションの調整不良の状態を作っちゃったってことだけどさ)。

ところが、ここんとこわりかし頻繁にベルトが外れる。サスペンションが適切に保たれてるのもかかわらず、スタートボタンを押すとかすかにシャララーという音がしてベルトの外れたのがわかり、ターンテーブルは数回転惰性で頼りなく回ったあと、あえなく停止する。どうもよくわからない。今までとは違う何か原因があるようにも思えるんだけど、わからない。仕方ないので最近は手でターンテーブルの外周を軽く回してからスタートボタンを押す。こうするとベルトは外れることもなく、いつものようにすぐに定速に達するのであった。

なんなのかなーこれは。30年使い続けて熟知してるつもりだったけど、とにかくまだナゾの部分があるってことだよな。

で、上の写真のごとくアウタープラッターを外して、プーリーのあたりをしばらくぼんやりと眺めていたんである。ふと思った。そういえばコイツを外してみたことってなかったよな。

まあそんな必要もなかったからね。だからそもそもプーリーがどうやってモーターに取り付けられてるのかもわかんない。プラスティック製のプーリーの上にある真鍮の帽子っぽい部品はプーリーを押さえる役目なんだろうか。

見るとこの部品はモーターの軸に二つの小さなイモネジで締め付けてあるらしい。観察してもよくわかんないのでごく細いL字の六角レンチを差し込んで回して緩めて引っぱってみると、プーリー本体と真鍮の部品がいっしょにポンっていう感覚をともなって外れた。


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するとプーリーの底面、モーターの軸のところにはもうひとつ真鍮製の薄い円盤状の部品があり、軸にはコイルスプリングが被せられている。ポンっと軽くはね返ってきたのはこのせいだったのか。触ってみるとこのコイルスプリングも薄い円盤も固定されてなくて、ただモーターの軸に乗ってるだけだ。

そこにプラスティックのプーリーがさらにモーター軸に通されるが、こいつもただ中心に軸が通ってるだけで固定されちゃいない。

そしてプーリーの上に真鍮の帽子を乗せ、コイルスプリングの弾性に抵抗しながら圧すように軸に通してイモネジで締め付けてある。つまりモーターの軸に固定してあるのはこの真鍮製の部品だけってことだ。


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でその真鍮の帽子だ。コイツをひっくり返してみるとプーリーと接触している面に黒いフェルト状のものが貼り付けてある。いや、「フェルト状」じゃなくてこれはフェルトそのものだな。

拡大してみるとこんな感じ。


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ひとつ上の写真に写るプーリーを見ると、中心のモーター軸の通る穴のすぐ外周にドーナツ状の凸部が成型されてるのがわかる。ここのところが黒いフェルト部分と接触してるらしい。

そして写真だとわかりにくいけど、そのプーリーの凸部とちょうど接触してるところのフェルトは接触してない部分とハッキリ段差が出来るくらいヘコんでいて、どうもその部分だけ押し潰されてそうなったみたいだ。

しかしさらに目を凝らして見ると、フェルトは押し潰されてるだけじゃなく摩耗していて、じゃっかん真鍮の地肌が透けて見えるハゲチョロケ状態だ。

なんでここにフェルトが貼ってあって、しかもそれが摩耗してんだろか。

しばらく考えて、あーそういうことかってようやく気がついた。これはクラッチだ。

ようするにモーターの回転するチカラは軸に直接ネジ止めされたこの真鍮帽子を回転させる。電源オンになって回り始めたモーター軸とこの部品は一体になって回転を始めるが、プーリー自体はモーターの軸に固定されてるわけじゃないので、コイルスプリングによって下から押し上げられ、モーターと一緒に回転している真鍮部品に押しつけられることによってモーターのトルクを受ける。

しかしフェルトを介しているため、電源オン後一瞬のうちに定速に達するモーターの回転をよそに、プーリーはフェルトによってスリップするため、そこでモーターのトルクの一部を逃がしながら徐々に滑らかにスピードを上げ、モーターよりもやや遅れて定速にたっする。

たぶんこれはそういう仕組みなんだろうと思った。

その先のチカラの伝達もついでにいうと、そうやってプーリーが回転を始めるとプーリーに掛かってるゴムベルトも多分プーリーのところでスリップしながらチカラを逃がしつつ(たぶんそのためのこのプーリーの材質と形状だ)、さらに遅れてサブプラッターをゆっくり回し始める。

そしてアウタープラッターはそのサブプラッターに固定されることなく乗ってるだけなので、おそらくこの接触面でもわずかなスリップが発生し、これら全体の機構が働くことにより、モーターがメインプラッターに一気にチカラを伝えることなくスムーズに定速まで上げていく。それによってサスペンションの揺れなど不要な振動を呼び起こさず静粛にレコード盤を滑らかに回そうということなんだろう。

そうかクラッチだったのか。ぜーんぜん知りませんでした。そうするとこのフェルトの摩耗は30年にわたってモーターのチカラをプーリーに優しく伝え続けたその結果なわけだ。もしかして、この摩耗がベルト脱落の原因なんじゃあるまいか。

つまりですね。フェルトがチビて起動トルクを適度に逃がす機能が働かなくなってプーリーにモーターのチカラが急激に伝わるようになる。そうするとそのチカラをモロに受けたゴムベルトの、プーリーに向かっていく側とプーリーから遠ざかる側のテンションに大きな差が生じ(プーリーよりサブプラッターのほうがはるかに重たいから、起動時のベルトはサブプラッター側がほとんど固定された状態でプーリーに向かっていく側は引っぱられ、遠ざかる側は逆にたるむ)、その不均衡によってベルトが外れちゃうんじゃないか。

つことは、もしその推測どおりならフェルトを貼り替えてやればクラッチ機能が復活して、ベルトの脱落は起こらなくなるんじゃないかしらん。おー、べつに大変そうな作業でもなさそうだからやってみようじゃん。

こういうのは純正のパーツがあって交換すりゃ済んじゃうんでしょうけど、残念なことに現在トーレンス製品を扱う輸入商社がないらしいんだな。つか、トーレンスというレコードプレーヤーの老舗はここ十何年か不安定に迷走を続けてて、いま現在企業として存続してるのかどうかもよくわからない(ブランド名だけが売り買いされて、技術の継承なんて跡形もないんじゃないかという気もする)。だからここは一番、自力でなんとかするしかない。

さて、テキはフェルトだ。もしかしたらウチのどっかにあるんじゃないか。子どもが小さいとき幼稚園のスモックの胸のところに付いてたアップリケの切れっぱしとかそういうのが、お裁縫箱のすみっこかなんかにあったりするとうれしいよな。そう思って奥さんに探してもらったんだけど、考えてみりゃあウチの子どもたちは下の息子ですらアラサーだもんなー。あるわけないよねアップリケ。

そしたらたまたまその翌日、新宿紀伊國屋ホールに芝居見物に行くことになってて、ちょうどアルタの裏あたりにオカダヤっていう生地・手芸材料店が今でもあるはずだから、そこならフェルトなんてきっとヨリドリミドリだよと奥さんが言うので連れてってもらったんでした。



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その前に摩耗したフェルトを帽子から剥がさなきゃなんない。カッターであらかたこそげ落としてからベンジンで拭き取ると、こんなふうにキレイに取れた。

そしてフェルトだけど、もともとは多分厚さ1ミリくらいだったんじゃないかと思われたから、オカダヤで1ミリ厚の10センチ角でウラ面に接着剤のついたヤツと念のため2.2ミリ厚のやや大判のフェルトを買ってきた。

その1ミリ厚のフェルトを円盤状に切り出して部品に貼り付けたのが下の写真なり。



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ちょっとカワイらしい色でしょ。べつに黒くなきゃいけないってこともないしさ。もっとも取り付けちゃえば全然見えないんだけどね。

まあしかし、モンダイはこれがほんとに原因だったのかということだ。これをもう一度プーリーにセットしてスタートボタンを押したらどうなるか。

元通りになったトーレンスのスタートボタンをターンテーブルが静止状態のまま押してみると、ベルトが外れることもなく、どこかが振動するということもなく、アヤシイ異音もせず、ターンテーブルは粛々と回り始めた。おー、やったじゃんか。やっぱりこのプーリーに貼られたフェルトの摩耗が大きな原因だったのは間違いなさそうだな。

ただ、こういう摩擦部分で使われることなんて手芸店で買った裏ノリ付きフェルトは当然想定してないでしょうから(まあ用途はふつうアップリケだよなー)、どのくらいの耐久性があるのか見当もつかない。まあ当分の間、要観察ってやつだな。なんかあったとしたらその時はその時だ。

あと、どうせここに手を入れたんだったら、プーリーやベルトの表面をキレイに拭いてやり、さらにサブプラッターとアウタープラッターの接触部分をコンパウンドかなんかで磨き上げてやるのもスムーズな回転の維持には必要かもしれないと考えている。

というのも、もともとこの亜鉛製のサブプラッターとアウタープラッターの接触面だけが滑らかな研磨仕上げになってて、その他の部分はそこまでの表面仕上げはされてない。もしかしたら30年前はもっとツルツルだったような気もするので、この部分のメンテナンスもそれなりにやっておいたほうが良さそうな気がしてる。

まーしかし、よく働いてくれてるよトーレンス。これからも頑張っておくれ。おれとしたらコイツが壊れて使い物にならなくなるまでレコードプレーヤーを新しくするつもりは全然ないからね。

その証拠に、じつはひと月ほど前にSMEの3012Rを外して新しい(といっても30年落ちの中古ですけど)トーンアームに載せ替えた。そしてその音がたいへんよろしい。ぶっちゃけ言えば今回のプーリーの修理も先日書いたヒッコリーボードの件も、トーンアーム載せ替えの副産物っつうか「行きがけの駄賃」つうか、リニューアルオープンつうか(違うか)、そういうもんなのであった。

その件についてはいずれそのうちまた。

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by god-zi-lla | 2019-03-30 12:14 | オーディオもねぇ… | Comments(0)