神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

東京27時ふたたび(さよなら弘田三枝子)

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古いエントリーを探してみると13年前、馬車道のユニオンで200円で買ってきたと書いてある。もうそんな前のことかと思ったけど、これをエサ箱じゃなくて足元の段ボールから引っこ抜いて買って帰って聞いたときのことは覚えてるね。そんくらいインパクトたっぷりのレコードだったですから。

ハナシはちがうけどヨコハマ馬車道のディスクユニオンといえばゲイリー・ムーアの〈WILD FRONTIER〉を同じく床に転がった「400円均一」の段ボールから引っこ抜いたのもこの時期のことで、コイツもまた帰って聞いたとたんショックを受けて愛聴盤になってしまったんだった(しかも後で調べるとオリジナル盤だった)。どうもあの店の段ボールにはいつもおれを呼ぶものが住んでいるような気がしてならない。

それはともかくとしてだな。さすがに200円の段ボール盤だからオビなんて付いてるわけないし、中にライナーノートのペラ1枚くらい入ってたのかどうかすらわからない。いちばん下に「©1999」の文字。ジャケットにも背にも「MICO」としか印刷されてないけど、弘田三枝子のミニアルバムなのは間違いない。ジャケット裏返すと小西康陽とコモエスタ八重樫の二人だけ知ってる名前があって、A面最初は〈レオのうた〉で小西のリミックスとあった。

レオのうた? ぢつはですね。〈ジャングル大帝〉のエンディングテーマは弘田三枝子が歌ってたんだってことをこのレコードで知ったんだよ。かけてみるといかにも90年代ぽいリズムトラックに乗って "かがやくぅーたてーがみぃー、とどろくーいなーずまー、あらしをー、つらぬくぅー白いししレオー" って懐かしい歌が飛び出してくる。あーこれって弘田三枝子だったんだー。小学3年は誰が歌ってるかなんて気にもしなかった。"ワーワワオワーオワーオワー、オワオワー" 。

つうわけで、たまたまこのアルバムを見つけてきたおかげでいっとき結構弘田三枝子にハマっちゃって、何枚か続けてCDを買って聞いてた。10代のころたくさん歌ってた洋楽カヴァーなんかあらためて聞いてみると、どれもこれもびっくりするほどパワフルでうまい。〈Be My Baby〉なんて元のロネッツよりいいんじゃないかってくらい(いや間違いなくロネッツより上だ)。

弘田三枝子が〈VACATION〉とか洋楽のカヴァーを日本語で歌ってたのを、おれはすれすれリアルタイムで覚えてる。たぶん小学校に上がる頃かその少し前くらいの時期、あれはテレビの歌番組だったんですかね。森山加代子もさかんに洋楽カヴァーを歌ってたそうだが、あの人は「ひっかりこまたきわーいわい」の強烈な印象の陰にすべてがカスんぢまってる。

ところでこのアルバムB面には〈あなたがいなくても〉つうグルーヴ感むんむんの歌が、これはコモエスタ八重樫アレンジのトラックで入っている。こりゃあたまらんなあと思って聞いてたんだが、ちょっと調べてみるとこいつはあのカムバック大ヒット曲〈人形の家〉のシングルB面に入ってたののセルフカヴァーだったんだね(しかし『カムバック』といってもまだ22歳だったんだな)。

13年前はまだYouTubeにいろんな音楽がアップされてるなんて時代じゃなかったが、今はちょっと探せば簡単に元歌を見つけることが出来る。








いやーもともとねっちょりしたR&B歌謡だったんだ。「アトランティックレコード・ジャパン」からこっちをA面にして再発してほしいくらいなモンだよ(そんなレコード会社ありませんけど)。バックのホーンアレンジもかっちょいいじゃんか。どっかJBっぽくて、なんかすごい。69年のオリジナルと99年のセルフカヴァー、いま聴き比べてみるとむしろコモエスタ八重樫のアレンジで歌い直した新ヴァージョンのほうが、今になってしまうと90年代つう「古さ」を感じさせたりする。

ところで10代のころのジャケット写真なんか見るとコロコロしてて、どっか(パワフルな歌声も含めて)エッタ・ジェイムズとダブって思い出されたりする。そのままいったらエッタ・ジェイムズ級のR&Bシンガーになったかもしれないけど、本人は(それに周囲も)エッタ・ジェイムズのようなジャンル限定の「女王様」よりもっとポピュラーな(つか『紅白でトリを取る』的な)成功を掴みたかったにちがいない。そのキモチがA面〈人形の家〉に、その本質がB面〈あなたがいなくても〉に出てたりするんでないかっていうのはおれの勝手なシマ憶測というもんである。

アルバムのタイトル曲〈東京27時〉はクレジットもないしよく分からないんだけど、小西康陽がこのアルバムのために書き下ろした曲らしい。それを芝居がかってネチョっとした雰囲気を醸し出しつつ出力を30%くらいに絞って歌ってる。耳元で囁くような脅かすような歌い方に、けっこう異様な雰囲気が漂っててちょっと怖い。タイトルは一瞬ピチカート・ファイヴの「東京は夜の7時」と見間違えそうだけど、まったく関係ない曲である。

いや、でもどうなんだ? ほんとに関係ないのか? 

東京の夜の7時から27時までは8時間。あの夜アタシはあなたにすっぽかされて晩ご飯を食べそびれたの。それきり会えずに数年後。やっと見つけたもう離さないわよ。よくもまあつぶれた店で夜の7時。待ち合わせなんて見えすいたことしてくれたわね。バラの花持って待ってたなんてよく言うわ。お店真っ暗だれもいない。でもアタシあなたを愛してる。東京の夜は27時を過ぎてこれから朝まであの日のぶんもアタシあなたに愛されたい。6年前のあの日東京の夜の7時。すっぽかされたあの夜をアタシぜんぜん忘れてなくて今は東京27時。もう離さないわよあなたに選ぶ権利なんてない。TOKYO 27 O'CLOCK SEX MACHINE ゲロッパ!

ふたつの歌はそのようにして繋がってる(わけはないな)。

いやそういうことじゃないんだが、10代のころの出力全開、パワーとテクニックでぶっ放す国産R&B爆弾娘が新しい世紀のとば口に立ったとき、その有り余るパワーを半分以下に絞って歌うようになっていた。R&Bシンガーが持てる出力を半分以下に抑えて歌えば『ジャズ』シンガーになるというのはおれのたんなる偏見だが、キッチュでゴシックな「解釈」で過剰に武装した弘田三枝子はじつに特異なジャズシンガーに変貌してたのである(なんて、おれは平岡正明か)。

どっかで、この人は開き直ったんですかね。

ちょうどこのレコードを買ってしばらくした2008年か09年ころリリースされた〈マイ・タペストリー〉つう日本のポピュラーミュージックのカヴァー集を聞くと、技巧を縦横に駆使しつつ勝手気ままに自分の思い通りにヒット曲を歌い(壊し)まくってる。MISIAの〈EVERYTHING〉で聞かせる超急速のスキャットなんて、日本の女性シンガーで同じようなことが出来る人はそういない気がする(フェイドアウトするのが惜しい)。じつにクドくてアザトくて、これは一種の「怪盤」といっていいんじゃなかろうか。

じつは当時これを聞いたところ、あまりの強烈さに何度も聞くうち「お腹いっぱい」になっちゃってそれっきり今日に至ってしまってね。今日はホント久しぶりに聞き返してみたが、やっぱりこれはすごい。優しく穏やかに「日本の名曲」を慈しみながら歌おうなんて気持ちはカケラもない。有名曲に隠された誰も知らない魅力を自分が掘り出してやる。フィジカル的には出力半分でもメンタル的にはパワー全開ってことか。

聞くところによれば銀座の「スイング」などでジャズシンガーとして歌ってたそうだけど、あの狭い店なら「出力30%」でもじゅうぶんだっただろうなと思う。ライヴのレパートリーに〈EVERYTHING〉を入れてたんだろうか。〈あなたがいなくても〉も歌ってたのか。〈Be My Baby〉はどうかな。

R.I.P.





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TOKYO 27:00(SOLID RECOUDS SLC-5019)LP
ミコちゃんのヒット・キット・パレード(東芝EMI TOCT-11012-3)2CDs
My Tapestry(Music Scene POPMAY38)CD



Commented by 虎吉 at 2020-08-02 19:22 x
ゴジラ殿

こんばんは
関東も梅雨明けですね 
実に魅力的なジャケットですね〜 昨日とは言わないけど 一昨日ですかって感じdす
弘田三枝子は時代的に段違いでした
「ジャングル大帝」がそうだったなんて 夢にも思いませんでした

それにしても「日本の名曲」を慈しみながら〜の件には
聞いたわけでもないのに 笑いました

観劇のつぶやきも久しぶりで 楽しいです
配信とは違いますよね
池袋がそんな感じだとは……

こちらは梅雨明け途端に猛暑日続き 
どんな夏になるのかわかりませんが ご自愛くださいませ
Commented by god-zi-lla at 2020-08-02 22:24
虎吉さん こんにちは。

「赤鬼」はいい舞台でした。野田秀樹の遊眠社時代からの古い戯曲だそうですが、おれは初めて見ました。しかし、テーマは現在でもバリバリそのまま意味を持ってる、いや、今のほうが上演する意味が大きいんじゃないかと思えるような芝居です。

この時期にこの芝居を掛けるという野田秀樹と俳優・スタッフの「覚悟」をひしひしと感じる舞台でした。

それにしても池袋東武のデパ地下にはビックリ。普段なら惣菜や弁当を買う人で大混雑の時間帯にかかってるのに、買い物がじつにラクチン。

東京のことは政府が完全に「他人事」として見ていますし、どうせヤツらに期待してもムリなのは承知の上。みんな自分なりに判断して行動しているということですね。
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by god-zi-lla | 2020-07-31 10:55 | 常用レコード絵日記 | Comments(2)