神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

'Perry Como Sings Jimi Hendrix' は想像を絶しますね

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ずいぶん前に文芸雑誌の新聞広告をなんとなく眺めてたら「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサ・ノヴァ」って文字が目に入った。

で、かなりびっくりしたから眺めるのをヤメてちゃんとその広告を読んでみたところ、これが村上春樹の新しい短編小説の題名だというじゃんか。さて、どうしたものであろうか。いや、ホラ、買うか買うまいか。悩むじゃないですか。文芸雑誌なんてめったなことじゃ買わないんだから。

村上春樹のファンであれば問答無用で買うんでしょうが、そうじゃないおれにとって村上春樹の短編は「めったなこと」には入ってない。

しかし、ふつう「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサ・ノヴァ」なんてタイトル見たらジャズ好きだったら驚くに決まってるわけだ、そんなもんが存在するわけないじゃんかって。だから驚いてその文芸雑誌の新聞記事下広告をまじまじと見てしまったわけだ。そして、そんな「あるわけない」ものは小説の題名だとわかる。しかも作者は村上春樹じゃないか。ジャズがらみの「あるわけない」アルバムタイトルのようなモンを題名にした小説の作者が、たんなるジャズ好きなんかじゃないコニサー・村上春樹だってんだからさ。

んー。こりゃあきっと一筋縄ではいかない小説だろうな。

ところが、それきり忘れてしまったんであった。買う買わない、どころじゃなくって、そんなことに驚いたこと自体をキレイさっぱり忘れちゃったの。じじいはホント困ったもんだぜ。

それはさておき。たとえば「チャーリー・パーカー・プレイズ・サルサ」なんてレコードがあったとする。これだって、そんなモンあるわけねーだろ。ではあるけども、チャーリー・パーカーがマチートのバンドでアルトサックスを吹いた録音は公式・非公式ひっくるめそこそこ残ってる。聴いてみればこれが結構楽しい。バードだってイヤイヤ演奏してるとは到底思えない。

マチートといやあアフロ・キューバン・ミュージックの大立者である。1950年代にはまだ「サルサ」なんて名前はなかったが、マチートたちがやってた音楽は間違いなくサルサの元祖なわけだ。だったらマチートのバンドにパーカーが加わった音源を集めたコンピレーションアルバムに「プレイズ・サルサ」つうタイトルを付けて売り出すレコード会社があったって不思議はない。

だからといって「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサ・ノヴァ」もあったって不思議ではない、なんてことは全然ないんです。それはもう、ありえない。

で、すっかりそんな小説があったのを忘れておったところが、いつも楽しみに読んでいるこちらのブログで村上春樹の短編小説「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサ・ノヴァ」について触れられているじゃないか。そうだそうだ、思い出したぞ。ガゼン好奇心がぶり返したんであった。そうか2年も忘れたままだったのか。

でも文芸雑誌だったからねえ、しかも2年も前の。いまさら古本探すのもアレだしな。だけどそういえば最近村上春樹の最新短篇集って単行本が出てた気がしたな。ひょっとしてそれに収録されてるんじゃあるまいかと検索したら案の定なのだった。さっそく歯医者に行った帰り道にある本屋で、平積みにされたその「一人称単数」つう書名の短篇集を買い求めてきた。その本文「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサ・ノヴァ」の冒頭部分が上の写真なり(横着な写真でスマン)。

読んでみた。なるほどやっぱり一筋縄じゃいかない仕掛けに満ちている。見事なもんだなあ。ここからこう入っていって、ここへ出てくるのか。軽い、ひょっとしてたんなるジョークかと思うような入口から、たいていのジャズ好きがちょっと立ち止まって考え込んでしまうようなところに出口が作ってある。

「三十四歳で死ぬというのがどういうことなのか、ちょっと考えてみてくれ」とバードは続けた。

このあたりからお終いのところまで、すごくいい。なんというか、グッとくる。そうだった、チャーリー・パーカーは34歳で亡くなったんだった。「弱冠」とアタマに付けてもいいくらいの年齢だ。あのボテっとした体躯と少しだらしない背広姿からムサ苦しい中年のおっさんだと、ついどこかで思い違いをしてしまう。それとビ・バップをほとんど一人で創造し完成させたという「偉業」が相俟って。


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でもこれはちょっとアレだな。村上春樹ファンはさておくとして(ごめんね)、チャーリー・パーカーもそこそこ聴いてて、40年代から60年代くらいまでのジャズについてウンチクのひとつふたつ(いや、みっつ四つと)垂れて若者にケムたがられたこともあるような、むかし買ったブートレッグの1枚2枚は自宅の棚に刺さってたりする人のほうが楽しめる小説かもしれない。

それにしてもNYの中古レコ屋のオヤジの、『ペリー・コモ・シングズ・ジミ・ヘンドリックス』なら在庫がある、っつう切り返しにはまいったなあ。この「アルバムタイトル」のインパクトはでかい。圧倒的破壊力。このインパクトが後半の「転調」を引っぱり出していく。

想像を絶する音楽〈Perry Como Sings Jimi Hendrix〉。それに比べればまだ想像することができるような気がする〈Charlie Parker Plays Bossa Nova〉。いやはや。



そういえば、と思い出して棚を引っかき回してみたら、

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(読めば、だれでも作ってみたくなるものさ)



Commented by 虎吉 at 2020-11-22 23:39 x
ゴジラ殿

こんにちは
孝太郎そうなんですかーーうむーー

春樹本のブログがすご過ぎ・深過ぎ・面白過ぎ
で気がつきませんでした

うむーー
Commented by god-zi-lla at 2020-11-23 10:12
虎吉さん こんにちは。
京都はすごい人出のようですね。

国立劇場も相当注意していたんでしょうけど、合宿生活してるわけじゃないから難しいですね。
孝太郎には、一日も早く回復して復帰してもらいたいものです。

お父さんとちがいスター性はほとんどゼロだけど、孝太郎は良い女形だと思います。

村上春樹「一人称単数」はまだ「チャーリー・パーカー…」とあと1篇しか読んでないんですが、いいですね村上春樹の短篇小説。
Commented by senriyan at 2020-11-23 18:45
この最後の写真に思わずニヤリです。
これを、ユニオンさんで売っている白ジャケットに入れてエサ箱にあったら私なら中身も確認しないで買いますねこりゃ。(笑)
何より、『ペリー・コモ・シングズ・ジミ・ヘンドリックス』のNYの中古レコード店のオヤジさんにこれを買い取りに出したらえらく怒られますね。(笑)

いや~、楽しませていただきました。



Commented by god-zi-lla at 2020-11-23 23:02
senriyanさん こんにちは。

この画像の元になったブート盤は30年くらい前にユニオンで買いました。白ジャケに入ってます(笑) 「A」の文字はもともと押してあるゴム印で、タイトルなどの文字はタイプライター風のフォントを探して入力し、ラベルの写真に合成しました。ウラ面のラベルには「B」のゴム印が押してあるんですが、べつにどっちがAでもBでも関係ない内容なので笑ってしまいます。

いやあしかし、senriyanさんのブログを読まなければ、この小説のことは忘れたままだったと思います。ありがとうございます。

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by god-zi-lla | 2020-11-21 18:53 | 本はココロのゴハンかも | Comments(4)