始まりはこれなのだった。
《作品その1》
いやー素晴らしいじゃないか。こういうのを「アート」と言わずしてナニをアートっつうんでしょうかと思わずヒザを打ちましたね。放置された自転車に植物のツルが絡んでいる。1日にしてこうなるもんじゃあ到底ない。ざっとひと月くらいの時間は必要なんじゃあるまいかしらん。これはたんに道ばたに置かれた自転車という名の物質=オブジェクトではなく、植物の意志なき意志によってここには「時間」さえも含まれしまったのである。
とかなんとか言っちゃってさ。
こりゃあほかにもあるんでないかと思って歩いてると、あるんですね。
《作品その2》
白い直線的な構成のフレームがなかなかアートっぽくて植物がよく映える。サドルがちょっと朽ちてるところなんかもポイントであろうか。もう少しすると、さらに見応えのある作品に成長しそうな気配である。
《作品その3》
前輪がそっくりどこかに消えてしまって、フロントフォークですっくと立っているところがこの作品のポイントであることに疑問の余地はない。黒いスポーツサイクルの精悍なフォルムが背後のアパートの外壁となかなかビミョーな雰囲気を醸し出している。ただ、これまでの作品と違い街路樹の植え込みではなく、コンクリートの打たれたアパートの敷地で植物の繁茂する余地が極めて少ない(よく頑張ってるともいえる)。今後夏の終わりとともに植物が枯れ果て、自転車だけになってしまう恐れが相当あるのが残念なり。
《作品その4》
前カゴに空き缶の投げ込まれた様子もなく、もしかすると「駐輪」してあるだけかもしれない。しかし後輪のあたりの葉っぱの具合を観察すると数日経っているようにも見える。今後の展開・成長が期待されるところであるが持ち主が現れないとも限らず、やや不安の残るところもある。白いフレームとフェンダーが印象的なので注意深く見守っていきたい。
《作品その5》
これは月極立体駐車場敷地脇に突っ込まれた作品。「2両編成」なところが非常に珍しい。別箇に据えられたものか同時なのか不明。フェンダーの錆び具合からすると相当長く置かれたもののようにも思えるが、そのわりに植物の繁茂は少ない。立体駐車場のオーナーが定期的に草刈りをしているのであろうか。余計な作為はアートにとって障害である。
《作品その6》
これは比較的新しい小さなマンションの敷地の角に置かれた作品である。じつに美しい仕上がりには思わず「人の手」が入ってんじゃあるまいかと思わせるものがある。わが家の近隣で現在見られる作品では白眉。白いフレームとに白いタイヤ。ちょっとトロピカルな趣きのある植物群。なによりも素晴らしい効果を上げているのは前輪の奥からスポークを抜けて湾曲するアイビーである。明るい緑色のペダルとピンクのチェーンロックも効いている。ただここはマンション敷地の整備された植栽なので、今後野放図に植物が自転車を覆っていくとは考えられない。そこんとこ、なんとかなんないモンであろうか。
ところで最近になって《作品その1》はナニモノかによって撤去されてしまった。じつに残念なり。まあこういう道ばたのチャリンコは大抵がいわゆる「放置自転車」で、場合によっては乗り捨てられた盗難車だったりもするので、そうなると発見次第撤去されてしまうのは仕方のないことではある。
まあこんなモンがあちこちにあるようなところは土地柄としてあんまり良くないとも言えるわけで近隣住民として自慢できるもんではないけども、おらぁ所詮ヨソ者だからそんなこたどーだっていい。ただね、こうして見てると放置自転車に絡みつく植物がなかなかにケナゲじゃありませんか。アートだって思って見てみれば、じゅうぶんにアートしてたりする。
とりあえずこの六つの「作品」は自宅から徒歩5分以内のものだけど、これはもう少し探求の範囲を広げてみてもいいかもしれない。いやマジ、けっこう面白いんですこれが。