神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

DSMでOn The Rocks



ぢつは村上春樹がデヴィッド・ストーン・マーティン(以下、DSM)の本を出したと知って、ちょっとびっくりしつつ最初に思い浮かべたのは自分ちのレコード棚に3枚しかないDSMのジャケットじゃなく、長いこと台所の戸棚の奥にしまい込んであったこいつらのことなのだった↓



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DSMのオンザロック・グラス。

18年くらい前、横浜は馬車道のユニオンのジャズコーナーでもらった、いわゆるひとつの(いや、ふたつの)ノヴェルティグッズなり。べつにDSMのレコードのオビに付いてる三角形の応募券10枚集めたら当たるキャンペーンとかじゃなく、たんにジャズレコード五千円以上お買い上げで1個プレゼントみたいなやつだった。

こういうキャンペーンのグッズもらって(イマドキならエコバッグとかマグカップとかね)大喜びしたことなんてないんだけど、このときだけは特別。たまたま1個レジでくれたもんからびっくりして、これ欲しさにキャンペーン期間中もういっぺん馬車道まで行ってレコード五千円分買ってしまったんでした。

いやーまんまとユニオンの作戦に引っかかっちまったなー。だけどこんくらい豪儀なプレゼントキャンペーンだったら、もっぺんくらい引っかかってもいいかなー。どお、またやんないユニオンさま? なんつて。

それから幾星霜。これでウィスキー飲んで飲み終わってゴシゴシ洗ったら、ありゃまイラスト消えちゃった。なんてことになるのが怖くてこの18年で1回か2回しか使ってなかったの。あはは。

でもこのネタですから、久しぶりに取り出してキレイに洗って撮ったのが写真。

だけどDMSと聞いてレコードじゃなく、オマケでもらったグラスを思い出してんだから不信心にもホドがあるってもんではあるが、まあいい。こちとらDMSが好きなわけじゃなくて、村上春樹の音楽やレコードにまつわる文章が好きなだけなんだから。

それはともかくとして。このふたつのグラスのアルバムがこれだ。



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左のグラスが左のジャケット。これは村上本の121頁に載っているビリー・ホリデイのアルバム《AT JAZZ AT THE PHILHARMONIC》。プレス時期はちがえどムラカミ先生のもおれのも12インチの国内盤ですね。説明不要の名盤なり。

グラスにプリントされた絵柄はイラストレーション単独でなく、タイトル含めジャケットデザインをそっくりそのままコピーしたんだってわかる。

オリジナルの10インチアルバム(CLEF MGC169)はJATPの46年のコンサートライヴから8曲を収録したものだったが、この独自編集の日本盤はA面にオリジナル10インチをそっくり収め、B面にはクレフ〜ヴァーヴ録音から当時の国内流通盤とダブらないよう「名唱をピックアップ」したと解説書に油井正一先生が書いている。Discogsによればムラカミ先生所蔵盤も同じ内容だろう。

ところでムラカミ先生は本文で、ハダカでベッドに突っ伏している女性の横に脱ぎ捨てられた黒いコートを、最初クロクマが女性を覗き込んでいるとこだと思ってたと書いている。

あはは。そういやそう思って見るとたしかにクロクマだわ。と感心したんだが、その文章を読んで以降これがクロクマにしか見えなくなっちゃって元に戻らない。じつに困ったことである(実害はないけど)。

そして、右のグラスのネタ元アルバムはこれなんだけども、ムラカミ先生の本には出てきません。今回の本に取り上げられた180何枚かがムラカミ先生のDSMコレクションのすべてと本文にあるから、このアルバムはないんだろうな。

でもさ。すごいよねDSM。なにがスゴいってチャーリー・パーカーのニックネームが『バード』だからといって、ジャケットでもやたら "鳥" にされちまってるパーカーだけど、この《BIRD and DIZ》ではディジー・ギレスピはちゃんと「人間」として描かれてるのにパーカーのほうは(魔法でもかけられたのかっつうような)サックスに羽の生えた「鳥」にされちゃってる。

だからグラスもそのまんま。赤いサックスに羽が生えてるのがチャーリー・パーカーです。かわいそうに。

それを12インチ化したのが写真右のジャケットでね。これもまあ「凡庸」なデザインちゃあそのとおりでしょうが、とにもかくにも二人ともちゃんとしたニンゲンではある。

このアルバムは油井先生の解説によるとオリジナルの10インチ盤ではなぜかケニー・ドーハムがトランペットを吹いてるトラックが混じってて、そんな断りはどこにもないもんだから当時ドーハムのトランペットもギレスピだと思って聴いてたんだと(テキトーだよなーノーマン・グランツ)。

それを12インチ化するにあたりドーハムのトラックを外し、もともとのパーカー&ギレスピの同日録音の別テイクを加えたとある(この時代の国内盤LPに封入された油井正一ら年季の入った評論家のライナーノートは『宝』です)。

バンドはパーカーとギレスピに、ピアノがセロニアス・モンク、ベースはカーリー・ラッセル、ドラムスにバディ・リッチ。すごいメンツだ。

中身はもう「これがビ・バップだ!」っていうようなトラックばかりでね。パーカー自作の急速調のブルーズなんかパーカーもギレスピも、ひゃあー、ってなモンである。まあこういう演奏はメカニカルに過ぎて、だからパーカーもビ・バップも大キライなんだって一派もいるから好き嫌いでしょうけど、おれは大好きなのさ。

それにしてもオリジナル10インチに収められたマスターテイク6つとその別テイク5つの計11テイクを1950年6月6日、たった一日で吹き込んじゃってるんだから、それも考えてみれば途方もないよなー。






BILLIE HOLIDAY AT JAZZ AT THE PHILHARMONIC(Verveポリドール 20MJ 0020)邦題『ビリー・ホリデイの魂』
BIRD and DIZ / The Genius of Charlie Parker(Verveポリドール 20MJ 0026)








# by god-zi-lla | 2024-03-22 21:58 | 常用レコード絵日記 | Comments(0)

桜が咲き始める前に、ここんとこのフーテン老人徘徊絵日記など。


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2月某日と某日。

歌舞伎座は『猿若祭』と銘打って十八代目勘三郎の十三回忌追善公演。
早いねえ。

正面脇に貼り出されたポスターは左端が勘九郎と長三郎の『連獅子』。ちゃんと踊れるようになった次男坊もたいしたモンだが、父ちゃん毛振りに気合い入りすぎ。ムチウチになっちまうぜ。

その右は長男の勘太郎。兄ちゃんがまた折り目正しいんだ。

次は勘九郎七之助の『籠釣瓶』、右端は鶴松の『野崎村』。鶴松大抜擢のお光っちゃん。『籠釣瓶』に兵庫屋七越で七之助とともに花魁道中をやった中村芝のぶも含め、もっともっと「抜擢」し続けないと歌舞伎は滅びる。





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2月某日。
夜、シアタークリエでケラの『骨と軽蔑』。

歌舞伎は男ばっかしの芝居で、こっちは女ばっかしの芝居だけど女が男やってるわけじゃなく男が出てこない。

クリエって小屋は初めて入った。もとは「芸術座」のあった場所で東京宝塚劇場の向かい。

宮沢りえに鈴木杏に犬山イヌコほか、期待してて実際面白くもあったんだけどアンプリファイドされたセリフが少し残念。できれば芝居はナマ声で見せてほしい。客寄せに演技トーシローなアイドルでも出てりゃ致し方なけれど、このキャストでなんでなんだ。

もしかしてこの小屋のそれが方針?




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某日。

国際フォーラム中庭(っていうのかね?)恒例の『大江戸骨董市』。外国人観光客たしかに増えたけど、意外と遠巻きに遠慮がちなのはこういう「市」に慣れない客が多いか。日本人でも外国人でも好きなヤツらはみんな(おれも含め)気になるブツがあれば遠慮会釈なく突撃してくるからね。

ところで骨董市、ここんとこ3回に2回は手ぶらで帰ってくるけど今回は獲物あり。





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武井武雄の『刊本作品』。古書を少しだけ並べてちんまりした店を出してたおじさんのところで豆本数冊のなかに混ざってるのを発見。虫喰いなど状態あんまり良くない。でもそのおかげで安いからオッケー。うふふふ。



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中身こんな感じ。
革装金箔押函入り。35/265。昭和27年刊。

この骨董市で今まで陶磁器、紙物、レコードなんかは買ったことあるけど「本」はまるで初めて。

うふふふふ。




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某日。
新入りの「すきまタワー」。
こんなところにはなーんの興味もないんだけど新しい本屋が出来たと聞きつけて来てみた。

タワーの手前でナナメってるのは昔からある新興宗教の大屋根。








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東京タワーより少し低くて大阪のアベノなんちゃらより高いのが自慢らしいビルディングは、麻布台ヒルズという新開地にできたこれなのだった。この中にその本屋があるというんだから仕方ない入ってみるか。





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一瞬本屋に見えなかったけどひと回りしてみると意外なくらい当たり前な棚の構成。

京都の大垣書店の関東初の店。リキ入ってるのはよくわかるけど、基本、このへん駅に近いわけでもなく住宅街でもなくオフィス密集地でもなくて本屋の立地として良いとは思えないから、なんとか長く続くように頑張ってほしいもんだ。

しかし大垣書店すごいよね。もう京都に店出すとこないんだろうな。

むかし北大路の本店に何度か行ったことがありますけど、ちょっと大きめの「町の本屋さん」でとても良い感じ。





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某日。
夜の歌舞伎座。

午後8時15分に始まる舞踊劇『喜撰』を見に幕見席。




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開場前の幕見席入り口。
ドアには「集合 7:55」とあり。

この夜の幕見にはドイツ人のお客多し。まわりでドイツ語ばかりきこえる。

ドイツ語だってことしかわかんないんだけどね、こちとら。

肝心の『喜撰』は梅枝が良い。松緑もさすが。ちびっ子所化3人がカワイイ。




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某日。

もひとつ「すきまタワー」。

いずれ近い将来この位置からタワーは見えなくなる。

麻布十番からほど近く、一の橋と二の橋の間。住所でいえば東京都港区三田1丁目。この一帯ついこないだまで低い軒の連なる東京の古い町場だったところで「再開発」のために町場は消えてなくなり更地になった。

手前の鉄パイプの「欄干」は古川にかかる橋。

数年後には上の麻布台ヒルズなんかと似たような、どこがどの「ヒルズ」だかわかんない無機的で無個性なビルディングの集合になるのは間違いない。

こんなとこばっかです、きょうびのトーキョーは。








# by god-zi-lla | 2024-03-18 14:00 | 日日是好日? | Comments(0)

つうわけでデヴィッド・ストーン・マーティンの一応続きみたいなもん。

読み終わって自分ちのレコード棚を見てみたところ、おれんちにデヴィッド・ストーン・マーティン(以下、DSM)の描いたレコードは3枚しかない。

そういえばそうだった。

ところで。本のなかでムラカミ先生も書いてるように、ノーマン・グランツは40年代から50年代はじめにクレフやノーグランから出したSP盤や10インチLPをコンパイルし、後年ヴァーヴレーベルで12インチ化した。だけどそれらにDSMのイラストレーションはほとんど使われてない。

まあ、10インチ四方のジャケットに合わせたデザインを12インチに流用してもスカスカな感じになってよろしくないってのもあるんでしょうが、そこはグランツも商売人。DSMのジャケットデザインではもう古臭くて、若いリスナーにアピールしないと判断したんじゃないかしらん。


DSMといっても、ハナシは思いっきり横道_d0027243_23211541.jpg


これはウチにある《Charlie Parker With Strings》。クレフの10インチ盤2枚を後年ヴァーヴで12インチにまとめたもので、ムラカミ先生は本文15頁でこのアルバムのことを嘆く。

”それに比べると後年一枚にまとめられたヴァーヴ12インチ盤のなんと凡庸なことか!” 

まあ「凡庸」ではありましょうが、『!』まで付けられちゃうかなあ。べつにこのジャケットにはなーんの思い入れもないんだけど、長年ウチの棚に住んでるものをクサされると意味もなく口惜しかったりして。棚子といったら子も同然。なんちて。

たしかに元になったDSMの描いた10インチ盤2枚のうちこっちのほうは結構いいかなとは思うんだけど、モンダイはもう1枚のこっち。まったくDSM以外に類を見ないイラストレーションで「凡庸」さのカケラもないってばそうでしょうけど、おれにはどうもなぁ。


ま、せっかく引っぱり出して写真まで撮ったんだからついでに「中身の音楽」のことを言いますが、おれはこのアルバム(の音楽)が大好きなのだった。

ジャズの 'ウィズ・ストリングス' 物ってクリフォード・ブラウンの有名な盤を含め、どれもあんまりグッとこない。なんかバックで鳴るヴァイオリンやチェロの「美音」に酔って、プレイヤー自身がキモチ良くなりすぎてんじゃね? なんて思ったりする。

そこいくと、このアルバムのチャーリー・パーカーは自分にもバックにも酔ってなくて(もちろんドラッグでラリってもなく)正気を保ってプレイしてる。イマドキの言い方すればここでのパーカーはいつもどおりに「攻めてる」。いやホントこのアルバムとってもいいんです。



とんだ枝線に入ってしまった。



ついでだから、枝線その2。

そんなわけでDSMジャケットのレコードを「ジャケ買い」したことはありません。

以前書きましたけど、いっとき野口久光画伯のジャケットを探し出しちゃあ何枚も手に入れたことがあった。ある特定の絵描きさんのジャケットを意識して(しかも中身の音楽を二の次にしてでも)買ったのは野口久光しかない。

アルフレッド・ライオン時代のブルーノートにはアンディ・ウォーホル画のジャケットが何枚かあって、それは欲しいと思ったことがあったけども、中身の音楽を欲しいと思わないままここまで来てしまったもんだから、ウチには1枚もない。

まあそんななかでウチにある数少ないDSM自慢タラタラ。



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ジャンゴ・ライハルトの《THE GREAT ARTISTRY OF DJANGO REINHARDT》、ムラカミ本の112頁に登場するクレフレーベル1953年録音の10インチ盤。

このアルバムは真偽未確認ながら、LPレコードとして(つまりSP盤の再発でなく)世に出たジャンゴ・ライハルト唯一の録音と言われてる。それで手に入れて聴いてみたんだけどジャケットがDSMの手になるとは現物見るまで知らなかった。

でもさ。このギタリスト、まるっきりジャンゴに似てねーじゃん。初めて見たとき、まずそう思った。DSMがどーとかじゃなく。

なにこのツルリンパとした顔は(ジャンゴはキザっぽい口髭をたくわえている)。それに、うしろに自転車コケてるし(学生かよ)。だいちギターがアンプらしきものに繋がってて、ジャンゴってセミアコ弾いてたんだっけ?

今回、ムラカミ先生の本を読んでみるとこの絵のギタリストはジャンゴじゃなく、DSMは息子をモデルに描いたとあるじゃないですか。どーりで似てないハズだよアカの他人なんだから。

ところでここでのジャンゴはピアノとベースとドラムスというリズムセクションを従えてプレイしている。ヴァイオリンはいない。これはおれの勝手な思い込みかもしれないけど、ステファン・グラッペリなどのヴァイオリンがいなくてドラムスが入ってるバンドだと(このアルバムに限ったことでなく)ジャンゴのギターがすごく「ジャズっぽく」きこえる。

ジャンゴ自身はちがうことをやってるわけじゃないのでしょうが、マヌーシュ・スイングとかジプシー・スイングとかいった風情がずっと後退して「ジャズ」になってる。

ジャンゴは53年5月16日に亡くなった。このアルバムはそのひと月前に録音されたとライナーノートにノーマン・グランツが記している。

「遺作」といっていいんだろうか。





Charlie Parker With Strings -- midnight jazz at carnegie hall(Verve ポリドール20MJ0017)LP
The Great Artistry Of Django Reinhardt(CLEF MGC-516)10inch LP





もうちょっとやるか
to be continued














# by god-zi-lla | 2024-03-14 16:10 | 常用レコード絵日記 | Comments(2)